ジカウイルス感染症

蚊に刺されることで広がるジカウイルス感染症。感染しても約8割の人には症状が出ないため、どこか他人事のように感じていませんか?しかし、その「気づかない感染」こそが、最も恐ろしい事態を引き起こす可能性があるのです。

特に妊娠中の方が感染した場合、ウイルスは静かにお腹の赤ちゃんへと移行し、「小頭症」などの深刻な先天性障がいを引き起こすリスクが報告されています。軽い病気、あるいは無症状だからと安心はできません。この記事では、ジカウイルス感染症の本当の恐ろしさと、あなたと大切な家族を守るために不可欠な知識を詳しく解説します。

ジカウイルス感染症の概要

ジカウイルス感染症は、ジカウイルスという病気の元になるウイルスが原因で起こる病気です。 主に、ウイルスを持った蚊に刺されることで人にうつります。

流行しているのは中南米や東南アジアなど、あたたかい地域が中心です。 この病気には、いくつか知っておいてほしい特徴があります。

  • どうやってうつるの?
  • ウイルスを持つ蚊(ネッタイシマカやヒトスジシマカ)に刺されることが主な原因です。
  • 性行為によって人から人へうつることもあります。
  • どんな症状が出るの?
  • 軽い熱、赤いポツポツ(発疹)、関節の痛み、目が赤くなる(結膜充血)などが主な症状です。
  • しかし、感染した人の約8割は症状が出ないか、出ても非常に軽いのが特徴です。

この病気で特に注意が必要なのは、妊娠中の方が感染した場合です。 おなかの赤ちゃんに影響が出て、「小頭症」という生まれつき頭が小さいなどの障がいが起こる可能性があります。

ジカウイルスは、デング熱を起こすウイルスとよく似ています。 そのため、ワクチンの開発が難しくなっています。 もし中途半端な免疫がつくと、次にデング熱にかかった時に症状が重くなる「抗体依存性増強(ADE)」という現象が心配されるためです。 この問題を乗りこえるため、世界中で安全なワクチンの研究が慎重に進められています。

ジカウイルス感染症の種類

ジカウイルス感染症は、症状のあらわれ方によって、大きく2つのタイプに分けられます。 ほとんどの場合は症状が出ないか、出ても軽いのが特徴です。 しかし、中には特別な注意が必要なケースもあります。

  • 症状が出ないタイプ(不顕性感染) ウイルスに感染しても、全く症状が出ない状態のことです。 感染した人の約8割がこのタイプで、本人が気づかないうちに治ります。
  • 症状が出るタイプ(顕性感染) 熱や赤いポツポツ(発疹)、関節の痛みなどの症状が出る状態です。 症状は比較的軽く、1週間ほどで自然に良くなることがほとんどです。

特に注意が必要な感染のかたち

上記のほかに、より深刻な状態につながる可能性がある、特別なケースが存在します。

  • お腹の赤ちゃんへの影響(先天性ジカウイルス感染症) 妊娠中の方が感染すると、ウイルスがお腹の赤ちゃんにうつることがあります。 これにより、赤ちゃんの頭が生まれつき小さい「小頭症」などが起こる可能性があります。
    さらに、赤ちゃんの目に深刻な異常が起こることも、複数の研究で報告されています。 ある調査では、感染した赤ちゃんに次のような目の異常が高い確率で見つかりました。 * 眼内石灰化 目の中にカルシウムが固まってしまう状態です。 * 小眼球症 生まれつき目の大きさが小さい状態です。 * 網膜や視神経の異常 物を見るために大切な部分にダメージが起こります。
  • 神経の病気(ギラン・バレー症候群) 非常にまれですが、感染後に手足がしびれたり、力が入らなくなったりすることがあります。 これは、自分の体を守るはずの免疫が、誤って神経を攻撃してしまう病気です。

ジカウイルス感染症の原因

ジカウイルス感染症は、「ジカウイルス」という病原体が、体の中に入り込むことで起こる病気です。 このウイルスは、主にウイルスを持つ蚊に刺されることで人にうつります。

ウイルスを運ぶ「蚊」が主な原因

ジカウイルスを運ぶ蚊は、主に2種類が知られています。

  • ネッタイシマカ あたたかい地域に生息する蚊です。
  • ヒトスジシマカ 日本にも広く生息している、黒と白のしま模様が特徴の蚊です。

これらの蚊が、次のような流れでウイルスを広げていきます。

  1. ジカウイルスに感染した人の血を吸います。
  2. ウイルスは蚊の体の中で増えていきます。
  3. その蚊が別の人を刺した時に、ウイルスをうつしてしまいます。

蚊以外にもある感染ルート

蚊に刺される以外にも、人から人へとうつる経路が確認されています。 これらの経路も知っておくことが、感染を防ぐために大切です。

  • 性行為による感染
  • お母さんからお腹の赤ちゃんへの感染(母子感染)
  • 輸血による感染

似たウイルスがいることの難しさ

ジカウイルスには、デング熱を起こすデングウイルスと「親戚」のような関係にある、というやっかいな特徴があります。 このため、ワクチンの開発が非常に難しくなっています。

過去にデング熱にかかった人がジカウイルスに感染すると、症状が重くなる可能性(抗体依存性増強:ADE)が心配されています。 これは、デング熱に対して作られた免疫が、かえってジカウイルスの感染を手助けしてしまう現象です。 この問題を乗りこえるため、世界中で安全なワクチンの研究が慎重に進められています。

ジカウイルス感染症の症状

ジカウイルスに感染しても、多くの人は症状が出ません。 感染した人の約8割は、気づかないうちに治ってしまいます。

症状が出る場合は、ウイルスが体に入ってから2~7日後に、 風邪に似た次のような症状があらわれることが多いです。

主な症状

  • 熱が出る 38.5℃以下の、あまり高くない熱が特徴です。
  • 赤いポツポツ(発疹) かゆみを伴うことも、伴わないこともあります。
  • 関節が痛くなる 特に手や足の指など、小さな関節に痛みが出やすいです。
  • 目が赤くなる(結膜充血) 白目の部分が赤くなりますが、目やにはあまり出ません。

これらの症状は比較的軽く、ほとんどが1週間以内に自然に良くなります。

特に注意が必要な「妊娠中の感染」

ジカウイルス感染症で最も気をつけなければいけないのは、 妊娠中の方が感染し、お腹の赤ちゃんに影響が出ることです。

特に、赤ちゃんの目には深刻な異常が起こることがあります。 ある研究では、生まれつきジカウイルスに感染した赤ちゃんに、 次のような目の異常が高い確率で見つかると報告されました。

  • 目の奥の異常 物を見るために大切な網膜(もうまく)や、 見たものを脳に伝える神経に異常が起こります。
  • 眼内石灰化(がんないせっかいか) 目の中にカルシウムが固まってしまう状態です。
  • 小眼球症(しょうがんきゅうしょう) 生まれつき目の大きさが小さい状態です。

これらの目の異常は、一つだけでなく複数同時に起こることがほとんどです。 残念ながら、視力への影響は回復が難しく、悪化することもあるとされています。

ジカウイルス感染症の検査・診断

ジカウイルス感染症かどうかを調べるには、まずお話を聞くことから始まります。 いつ、どの国へ行ったか、蚊に刺されたかなどを詳しくお聞きします。

しかし、熱や発疹などの症状だけでは、デング熱と見分けるのが難しいです。 そのため、ウイルスがいるかを確かめるための詳しい検査が必要になります。 検査には、ウイルスの種類を特定するために、主に2つの方法があります。

  • PCR検査 体の中にジカウイルスそのものがいるかを調べる検査です。 ウイルスの遺伝子という、設計図のようなものを見つけ出します。 症状が出てから早い時期に、血液や尿を使って調べることができます。
  • 抗体検査 ウイルスと戦った証拠である「抗体」が体にあるかを調べます。 抗体は、ウイルスが入ってきてから少し時間が経って作られます。 そのため、感染した直後ではなく、回復してきた頃に検査します。

特に妊娠中の方が感染した疑いがある場合は、とても慎重な診断が求められます。 お腹の赤ちゃんへの影響を調べるため、産科や眼科の専門家が協力します。

流行している地域から帰国後に心配な症状が出たら、自己判断は禁物です。 すぐに感染症を専門とする病院で相談するようにしてください。

ジカウイルス感染症の治療

残念ながら、今のところジカウイルスを直接やっつけるお薬はありません。 そのため治療は、つらい症状を和らげて、体が回復するのを助けることが中心になります。

具体的には、次のような治療で体をサポートします。

  • 体をゆっくり休ませる ウイルスと戦うには体力が必要です。 安静にして、体がウイルスと戦う力を使えるようにします。
  • 水分をしっかりとる 熱が出ると汗をかき、体の中から水分が失われがちです。 脱水症状にならないように、こまめに水分をとることが大切です。
  • 症状を和らげるお薬 熱や関節の痛みには、解熱鎮痛薬というお薬を使います。 ただし、デング熱と症状が似ているため、お薬の選び方が重要です。 アセトアミノフェンという成分のお薬が、比較的安全とされています。

ワクチン開発の新しい希望

現在、ジカウイルス感染症を防ぐワクチンはありませんが、世界中で研究が進んでいます。 最近では「環状RNAワクチン」という、新しい技術を使ったワクチンの研究が報告されました。

この新しいワクチンは、親戚のウイルスであるデング熱の症状を悪化させる心配が少ないように作られています。 マウスを使った実験では、ジカウイルスの感染を防ぐ効果が示されました。 安全で効果の高いワクチンが完成することが、強く期待されています。

もし流行している地域から帰国後に心配な症状が出たら、自分で判断しないでください。 特に妊娠中の方やその可能性がある方は、すぐにお医者さんに相談することがとても大切です。