シャルコー・マリー・トゥース病

「最近、何もないところでつまずきやすくなった」「ペットボトルのふたが開けにくくなった」など、原因のわからない体の変化に不安を感じていませんか?その症状は、もしかしたら「シャルコー・マリー・トゥース病」のサインかもしれません。

聞き慣れない病名ですが、遺伝子の変化によって手足の神経の働きが少しずつ弱まっていく病気で、日本では約1万人に1人が罹患していると報告されています。決して他人事ではないこの病気は、原因となる遺伝子が100種類以上も見つかっており、人によって症状の現れ方もさまざまです。

この記事では、国の指定難病でもあるシャルコー・マリー・トゥース病について、その原因から多様な症状、利用できる支援や治療法までを詳しく解説します。ご自身の症状と照らし合わせ、病気への理解を深めるためにお役立てください。

シャルコー・マリー・トゥース病の概要

シャルコー・マリー・トゥース病は、遺伝子の変化が原因で起こる病気です。 手や足に伸びている「末梢神経(まっしょうしんけい)」の働きが、少しずつ弱まっていきます。

末梢神経は、脳からの「動け!」という命令を筋肉に伝える運動神経と、熱さや痛さなどの感覚を脳に伝える感覚神経からできています。 この病気は、これら両方の神経が影響を受けるため、「遺伝性運動感覚ニューロパチー」とも呼ばれます。

日本ではおよそ1万人に1人の方がこの病気を持っていると報告されています。 世界中の研究報告をまとめた分析では、10万⼈あたり約18⼈とされており、特にご高齢の⽅や男性に多い傾向が示唆されています。

この病気の主な特徴を以下にまとめました。

  • 影響を受ける場所
  • 手や足の先の方にある末梢神経
  • 主な症状
  • 手足の筋力が弱くなる、筋肉がやせて細くなる、感覚が鈍くなる、足の形が変わるなど
  • 進行
  • 多くの場合、症状はゆっくりと進みます
  • 発症時期
  • 10代〜20代で気づかれることが多いですが、大人になってから発症することもあります

シャルコー・マリー・トゥース病は国の指定難病になっており、医療費の助成といったさまざまな支援を受けることが可能です。

シャルコー・マリー・トゥース病の種類

シャルコー・マリー・トゥース病は、実は一つの病気ではありません。 原因となっている遺伝子の違いなどから、たくさんの種類に分けられます。 どの種類かによって、症状の進み方などが少しずつ変わるため、分類はとても大切です。

分類は、主に次の2つのポイントを組み合わせて行われます。

  • 神経のどの部分が傷つくか
  • 神経を電気コードに例えてみましょう。
  • 脱髄型(だつずいがた)
  • コードを覆うビニールのカバー(髄鞘:ずいしょう)が傷つき、電気がうまく伝わらなくなるタイプです。
  • 軸索型(じくさくがた)
  • コードの中身である銅線(軸索:じくさく)そのものが傷つくタイプです。
  • 遺伝のしかた
  • 病気の原因となる遺伝子が、親から子へどのように伝わるかによる違いです。

これらの組み合わせによって、主に以下のような大きなグループに分けられます。

主な種類

傷つく部分

遺伝のしかた

CMT1

髄鞘(カバー)

常染色体優性

CMT2

軸索(銅線)

常染色体優性

CMT4

髄鞘(カバー)

常染色体劣性

CMTX

髄鞘・軸索

X染色体性

世界中の多くの研究報告をまとめた分析によると、これらの種類の中でもCMT1と診断される方が最も多いことがわかっています。 シャルコー・マリー・トゥース病の方10万人あたり約11人がCMT1と報告されており、これは他の種類よりも明らかに多い数字です。

現在では、原因となる遺伝子が100種類以上も見つかっています。 どの遺伝子に変化があるかによって、さらに「CMT1A」のように細かく分けられます。 このように種類が多いことを「遺伝的多様性」と呼び、これが同じ病名でも人によって症状が違う理由の一つなのです。

シャルコー・マリー・トゥース病の原因

シャルコー・マリー・トゥース病は、体の設計図である「遺伝子」の変化が原因で起こる病気です。 私たちの手足の神経が正しく働くためには、いろいろな種類のたんぱく質が必要です。 しかし、遺伝子の情報が少し変わってしまうことで、これらのたんぱく質がうまく作れなくなります。 その結果、手足の神経の働きが少しずつ弱まってしまうのです。

原因となる遺伝子は、現在までに100種類以上も見つかっています。 どの遺伝子に変化があるかによって、神経のどの部分に問題が起きるかが変わってきます。

遺伝子の働き

神経に起こる問題

ミエリンの構成・維持

神経を覆うカバー(髄鞘)が傷つき、電気信号がうまく伝わらなくなる

軸索内の物質輸送

神経の中で栄養などを運ぶ機能が低下し、神経が弱ってしまう

ミトコンドリア機能

神経が活動するためのエネルギー工場がうまく働かなくなる

最近の研究では、FIG4という遺伝子の変化が、この病気だけでなく、パーキンソン病に似た症状(パーキンソニズム)を引き起こす可能性も報告されています。 パーキンソニズムとは、手足がふるえたり、動きがゆっくりになったりする症状のことです。 FIG4遺伝子に特定の変化があると、シャルコー・マリー・トゥース病の症状とあわせて、こうした症状が現れることがあります。

このように、原因となる遺伝子の研究は日々進んでいます。 しかし、遺伝子の変化がどのようにして病気を引き起こすのか、詳しい仕組みはまだ解明されていない部分も多く、現在も研究が続けられています。

シャルコー・マリー・トゥース病の症状

シャルコー・マリー・トゥース病の症状は、体の中心から遠い部分、つまり手や足の先からゆっくりと現れるのが特徴です。 脳からの命令を伝える電線である末梢神経のうち、長い神経ほど影響を受けやすいため、足先の症状から始まることが多くなります。

症状の出始めは子供の頃や若い時期が多いですが、気づかないまま過ごし、年齢を重ねてから症状がはっきりすることもあります。 実際に、ご高齢の方でこの病気を持つ方の割合が高いという研究報告もあります。

ご自身の状態と見比べるための、症状のチェックリストをご紹介します。

【足にあらわれる症状】 足の筋肉が弱くなったり、感覚が鈍くなったりすることで起こります。

  • 歩きにくさ
  • 何もないところでつまずきやすい、足首をねんざしやすい、スリッパが脱げやすいといった症状が出ます。
  • 特徴的な歩き方(鶏歩:けいほ)
  • つま先が上がらないのを補うため、太ももを高く上げて歩くようになります。
  • 足の形の変化
  • 足の裏の筋肉のバランスが崩れ、土踏まずが異常に高くなったり(凹足:おうそく)、足の指が「く」の字に曲がったりします(ハンマー趾:し)。
  • ふくらはぎの筋肉のやせ細り
  • ふくらはぎの筋肉がやせて、まるで逆さにしたシャンパンボトルのように足首にかけて細くなります。

【手にあらわれる症状】 一般的に、足の症状がしばらく続いた後に、手の症状が現れてきます。

  • 服のボタンがかけにくい
  • お箸やペンがうまく使えない
  • ペットボトルのふたが開けにくい
  • 手のひらの筋肉がやせて平たくなる

【その他の症状】 筋肉の症状だけでなく、以下のような症状が現れることもあります。

  • 感覚障害
  • 手袋や靴下で覆われる範囲の感覚が鈍くなります。触った感じや温度が分かりにくくなるため、ケガに気づきにくくなることがあります。
  • ふるえ(振戦)
  • 自分の意思とは関係なく、手などがリズミカルにふるえることがあります。
  • パーキンソン病に似た症状(パーキンソニズム)
  • まれですが、特定の遺伝子(FIG4遺伝子など)に変化があるタイプでは、手足のふるえや動きの遅さといった症状が合併することが研究で報告されています。

症状の現れ方や進むスピードは人それぞれです。 気になる症状があれば、一度専門の医療機関に相談することが大切です。

シャルコー・マリー・トゥース病の検査・診断

シャルコー・マリー・トゥース病の診断は、パズルのピースを組み合わせるように、いくつかの検査結果を総合的にみて判断します。 まずは、症状やご家族の病歴を詳しくお聞きする「問診」と、医師が体の状態を直接調べる「診察」から始まります。

これらの診察でこの病気が疑われる場合、さらに詳しく調べるために、次のような専門的な検査を行います。

【神経の働きを調べる検査(電気生理学的検査)】

  • 神経伝導検査 手足の神経にとても弱い電気を流す検査です。 神経を情報が伝わる速さや強さを測定します。 この検査で、神経の「カバー(髄鞘)」と「中身の線(軸索)」のどちらに問題があるかを見分けることができます。 検査中は少しチクチクとした刺激を感じることがあります。

【病気の原因を特定する検査】

  • 遺伝子検査 診断を確定するために行われる重要な検査です。 血液を少し採るだけで、病気の原因となる体の設計図(遺伝子)の変化を確認できます。

これらの検査結果を、以下のように総合的に評価して最終的な診断を下します。

診断の3つの柱

調べる内容

1. 体の症状

手足の筋力低下、筋肉のやせ、感覚の鈍さ、足の変形など

2. 神経の働き

神経伝導検査で、神経を電気が伝わる速さが遅いなどの異常がないか

3. 遺伝子の情報

遺伝子検査で、病気の原因となる遺伝子の変化が見つかるか

この病気は、症状が似ている他の末梢神経の病気と見分けることがとても大切です。 世界中の研究報告をまとめた分析でも、より正確な診断をするために、こうした明確な基準で判断することの重要性が示されています。 気になる症状があれば、まずは専門の医療機関に相談することが、適切な診断への第一歩です。

シャルコー・マリー・トゥース病の治療

今のところ、この病気を完全に治すためのお薬はまだ見つかっていません。 そのため治療の目標は、症状の進みをゆるやかにし、毎日の生活での困りごとを減らすことになります。

治療は、患者さん一人ひとりの症状に合わせて、次のような方法を組み合わせて行います。

  • リハビリテーション
  • 関節が硬くなるのを防ぐためのストレッチや、筋力を保つための運動です。
  • 無理のない範囲で続けることが、とても大切になります。
  • 歩くのを助けるロボットスーツ「HAL®」を使ったリハビリも、保険を使って受けることができます。
  • 体を支える道具(装具)を使った治療
  • 歩きやすくして転ぶのを防ぐため、足の装具(短下肢装具:AFO)がよく使われます。
  • 世界中の研究をまとめた分析によると、装具は歩く速さなどを助ける良い影響が見られます。
  • しかし、効果の現れ方は人それぞれ違うため、ご自身の状態にぴったり合ったものを選ぶことが非常に重要です。
  • 最近では、3Dプリンターで作る新しい装具も開発されています。
  • これまでの装具と同じくらい歩きやすさを助ける効果が期待でき、つけ心地や快適さが良いという研究報告もあります。
  • お薬による治療
  • 病気の進行そのものを止めるお薬はありません。
  • しかし、しびれや痛みといった、つらい症状を和らげるためにお薬が使われることがあります。
  • 手術
  • 足の形が大きく変わり、歩くのがとても難しくなった場合には、骨の形を整える手術が考えられます。

どの治療法が良いかは、症状や体の状態によって本当に人それぞれです。 主治医の先生や理学療法士さんとよく相談しながら、ご自身に合った治療法を見つけていきましょう。