エムポックス(サル痘)

かつてアフリカの風土病とされていた「エムポックス(サル痘)」が、今や世界100カ国以上へ広がり、私たちの生活を脅かす存在となっています。世界保健機関(WHO)が2度にわたり「国際的な緊急事態」を宣言したことからも、その深刻さがうかがえます。

2022年の流行は比較的軽症なタイプが中心でしたが、現在、より問題視されているのは、死亡率が最大10%に達する可能性のある毒性の強い「クレードⅠ」です。このウイルスは進化を遂げ、世界へ拡大し始めていますが、診断や治療法の開発が追いついていないのが現状です。

この記事では、エムポックスの最新情報から具体的な症状、そして自分や大切な人を守るための正しい知識までを詳しく解説します。未知のウイルスから身を守るため、まずはその正体を知ることから始めましょう。

エムポックス(サル痘)の概要

エムポックスは、「エムポックスウイルス」という ウイルスに感染することで発症する病気です。 もともとはアフリカの一部地域で見られる病気でした。

しかし2022年5月以降、これまで流行していなかった 世界100カ国以上の国々へ急速に広がりました。 この事態を、世界保健機関(WHO)は非常に重く見ています。

そのため、2022年7月と2024年8月の2度にわたり、 「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言しました。 これは、世界中が協力して対応すべき重要な健康問題の合図です。

エムポックスウイルスには、性質の異なる種類があります。 この種類は「クレード」と呼ばれ、症状の重さで分けられます。

  • クレードⅠ より毒性が強く、重い症状を引き起こしやすいタイプです。 残念ながら、死亡率は最大で10%に達することもあります。
  • クレードⅡ クレードⅠに比べて、症状が比較的軽いとされるタイプです。

2022年の流行は、症状が軽いクレードⅡが中心でした。 しかし最近、毒性の強いクレードⅠが進化を遂げ、 アフリカ以外の地域でも見つかるようになっています。

ウイルスは常に変化しており、その進化の速さに 診断技術の開発が追いついていないのが現状です。 そのため、エムポックスは今も世界中で警戒が必要な感染症です。

エムポックス(サル痘)の種類

エムポックスウイルスは、実は1種類だけではありません。 ウイルスの性質によって、いくつかの種類に分けられます。 この種類のことを専門用語で「クレード」と呼びます。

クレードは、ウイルスの家族や兄弟のようなものと考えてください。 病気を重くする力の強さ(毒性)などに違いがあります。 主に「クレードⅠ」と「クレードⅡ」の2つのグループに大別されます。

項目

クレードⅠ

クレードⅡ

ウイルスの強さ(毒性)

病気を重くする力が強い

病気を重くする力が比較的弱い

主なサブクレード

Ia、Ib

IIa、IIb

近年の流行

新しいタイプ「Ib」が出現し、世界へ拡大中

2022年に世界流行した「IIb」が含まれる

注意点

死亡率が最大10%に達するとの報告もある

クレードⅠに比べると症状は軽い傾向

2022年に世界中で流行したエムポックスを覚えていますか。 あの流行は、症状が比較的軽い「クレードⅡ」の中の、 「クレードⅡb」というタイプのウイルスが原因でした。

一方で、より注意が必要なのが「クレードⅠ」です。 こちらは症状が重くなりやすい、力の強いウイルスです。 最近、このクレードⅠがさらに変化した、 「クレードⅠb」という新しいタイプが生まれています。 この新しいウイルスは、アフリカ以外の地域にも広がっています。

ウイルスは常に姿を変え、進化し続けています。 残念ながら、その変化のスピードに、 ウイルスを見つけるための検査技術の開発が追いついていません。 そのため、気づかないうちに新しいウイルスが、 広がってしまう危険性が世界中で指摘されています。 正しい知識で、しっかりとした対策を続けることが大切です。

エムポックス(サル痘)の原因

エムポックスは「エムポックスウイルス」への感染が原因です。 このウイルスは、もともとアフリカに住むリスなどの動物が、 持っていたと考えられています。

人から人への感染は、主に次の3つの経路で起こります。

  • 接触による感染 感染した人の発疹やかさぶた、体液に直接触れることです。 これが、最も多い感染の広がり方とされています。
  • 物を介した感染 ウイルスが付いた衣服や寝具、タオルなどを共有すると、 感染する場合があります。
  • 飛沫による感染 感染した人と顔を近づけて、長い時間お話をすることで、 咳やくしゃみのしぶきから感染することがあります。

また、エムポックスはほかの病気と同時にかかることがあります。 海外では、新型コロナと同時に感染した例が報告されています。 スペインでは、エムポックスと新型コロナ、さらに梅毒という 3つの病気に同時にかかった例もありました。

エムポックスと新型コロナは、どちらのウイルスも、 私たちの体を守る「自然免疫」に影響を与える可能性が、 研究で指摘されています。

※自然免疫とは 生まれつき体に備わっている、ウイルスなどから 体を守るための最初の防御システムのことです。

複数の病気に同時にかかると、症状がどう変化するのか、 まだ分からないことも多いのが現状です。 正しい知識で、しっかりと感染対策を続けることが大切です。

エムポックス(サル痘)の症状

エムポックスに感染しても、すぐには症状は出ません。 ウイルスが体に入ってから5〜21日ほどの潜伏期間があります。 この期間を経て、症状は2つの段階で現れるのが特徴です。

1. 発疹(ほっしん)が出る前の初期症状 まず、次のような風邪に似た症状から始まるのが一般的です。

– 38.5℃以上の急な発熱 – ズキズキするような強い頭痛 – 体がだるくなる強い倦怠感(けんたいかん) – 背中や筋肉の痛み – 首や脇の下、足の付け根のリンパ節の腫れ

これらの症状は、新型コロナウイルス感染症などとも似ています。 そのため、初期症状だけで見分けるのは難しい場合があります。

2. 特徴的な発疹(ほっしん) 初期症状が始まってから1〜3日ほどで、発疹が現れます。 この発疹は、時間とともに見た目が変化するのが大きな特徴です。

– 段階① 平らな赤い斑点が現れる – 段階② 少し盛り上がったぶつぶつ(丘疹)に変わる – 段階③ 中に水がたまった水ぶくれ(水疱)になる – 段階④ 中にうみがたまったふくらみ(膿疱)になる – 段階⑤ 最後にかさぶたになり、はがれ落ちる

発疹は顔や手足から始まり、口の中や陰部、肛門など、 全身のあらゆる場所に広がることがあります。

研究でも報告されているように、症状の重さや合併症には、 人によって大きな差が見られます。 気になる症状がある場合は、自己判断をせず、 早めに医療機関に相談することが大切です。

エムポックス(サル痘)の検査・診断

もしも熱や発疹など、エムポックスかもしれない症状が出たら、 自分で判断せずに、まずはお近くの医療機関へ相談してください。 医師が症状などから可能性を考えたときに、検査を行います。

検査の中心は、ウイルスの設計図(遺伝子)のかけらを探す、 「PCR検査」という方法です。 主に、症状が出ている部分から調べるための材料を取ります。

  • 検査で調べる材料の例
  • 発疹(ほっしん) 水ぶくれの中身や、うみなどを綿棒で取ります。
  • 皮膚のかさぶた はがれそうなかさぶたを、ピンセットなどで採取します。
  • 血液 注射で血を採って、ウイルスがいるか調べます。
  • のどや鼻の奥の液 長い綿棒でこすって、粘液を採取します。

検査の結果と、患者さんへの問診や発疹の様子の観察など、 医師の診察をあわせて、最終的な診断が決まります。

しかし、エムポックスウイルスの診断は簡単ではありません。 ウイルスは常に姿を変え、進化し続けているからです。 このウイルスの進化の速さに、検査キットの開発が 追いついていないのが、世界的な課題となっています。

そのため、新しいタイプのウイルスを正確に見つけ出すのが、 難しくなる可能性も指摘されています。 だからこそ、気になる症状があれば早めに受診することが、 自分と周りの人を守るためにとても大切です。

エムポックス(サル痘)の治療

現在、エムポックスだけに効く特別な治療薬はありません。 そのため治療は、つらい症状を和らげることが中心になります。 これを「対症療法(たいしょうりょうほう)」と呼びます。

ほとんどの場合は、自分の体の力で自然に治っていきます。 医師は、体がウイルスとしっかり戦えるように手助けをします。

  • 症状を和らげる治療
  • 熱や痛みに対して 熱を下げたり痛みを抑えたりする薬を使います。
  • 皮膚の発疹(ほっしん)に対して かゆみなどを抑える塗り薬を使い、皮膚を清潔に保ちます。
  • 脱水症状の予防 体の水分が不足しないよう、しっかり水分をとります。

症状が重い方や、もともと体の抵抗力が弱い方には、 ウイルスの増殖を抑える「抗ウイルス薬」を使うことがあります。

しかし、これらの薬は天然痘(てんねんとう)という、 別の病気のために作られたものです。 エムポックス専用の薬は、まだ開発の途中なのです。

なぜなら、ウイルスの詳しい性質がまだ十分に解明されておらず、 薬の安全性や効果を確かめる大規模な研究も簡単ではないからです。

世界中の研究者が新しい治療法の開発を急いでいます。 気になる症状があれば、自分で判断せずに医療機関へ相談しましょう。