顔面外傷

「まさか自分が」と思うような転倒や些細な事故が、顔に深刻なダメージをもたらす「顔面外傷」につながることがあります。顔は人の印象を左右するだけでなく、食事や会話といった、私たちの「当たり前の日常」を支える重要な機能を担っています。

この大切な顔に負うケガは、皮膚の傷や歯の損傷に留まらず、時には複雑な骨折を引き起こし、顔の変形や「うまく噛めない」「口が開かない」といった後遺症を残す危険性も。実は、飲酒がケガのリスクを高めるという意外な事実もあります。

本記事では、顔面外傷の様々な種類と原因、見逃してはいけない症状、そして最適な治療法の選択肢までを詳しく解説します。万が一の時に備え、ご自身と大切な人を守るための正しい知識を身につけましょう。

顔面外傷の概要

顔面外傷とは、転んだり事故にあったりして顔に負うケガの総称です。 顔は人の見た目にとって、とても大切な部分です。

それだけでなく、顔には生きていく上で欠かせない役割があります。 食事や呼吸、会話をするといった機能も担っているのです。

顔面外傷では、主に以下の部分が傷つく可能性があります。

  • 軟組織 皮膚や唇、口の中の粘膜といった、やわらかい部分です。
  • 歯と歯を支える組織 歯が欠けたり、折れたり、グラグラになったりします。
  • 顔の骨 あごや頬、鼻、目の周りの骨が折れることです。

これらのケガは、見た目の変化だけでなく、機能的な問題も起こします。 例えば、ものが噛みにくい、口が開きにくいといった症状が出ます。

また、顔のケガはアルコールの飲みすぎと関連することも少なくありません。 ある研究では、ケガで救急外来を訪れた方に簡単な助言をすることが、その後の飲酒量を減らし、将来のケガの予防につながる可能性が示されています。

このように、顔面外傷の治療は、傷や骨折を治すだけではありません。 顔の機能を取り戻し、見た目の問題を改善することも大切になります。 さらに、ケガによる心の負担にも目を向ける必要があります。

顔面外傷の種類

顔のケガは、傷ついた場所によって大きく3つに分けられます。 どこをケガしたかで、症状や治し方が変わってきます。

  • 軟部組織損傷(なんぶそしきそんしょう) 皮膚や唇、口の中の粘膜といった、やわらかい部分のケガです。 すり傷や切り傷、強くぶつけたときの打ち身などがあります。
  • 歯と歯を支える組織の損傷 歯が欠けたり、折れたり、グラグラになったりするケガです。 ひどい場合は、歯が抜けてしまうこともあります。
  • 顔の骨の損傷(顎顔面骨骨折:がくがんめんこつこっせつ) あごや頬など、顔の骨が折れてしまうケガのことです。 顔の骨は複雑な形なので、専門的な治療が必要になります。

顔の骨折は、折れた場所によってさらに細かく分けられます。

骨折の場所

特徴

下顎骨骨折(かがくこつこっせつ)

顔の骨折で最も多く、あごの骨が折れることです。<br>特に関節部分の骨折は、口の動きに関わるため慎重な治療が必要です。

上顎骨骨折(じょうがくこつこっせつ)

顔の真ん中あたりの骨折で、かみ合わせに影響が出やすいです。

頬骨骨折(きょうこつこっせつ)

ほっぺの骨の骨折です。<br>顔の形が変わったり、口が開きにくくなったりします。

鼻骨骨折(びこつこっせつ)

鼻の骨の骨折です。鼻血が出たり、鼻の形が変わったりします。

骨折の治療法は、折れた場所や状態によって慎重に選ばれます。 以前は手術をしない治療が中心でしたが、今は手術も増えています。 金属のプレートやネジで骨を固定する方法です。

しかし、手術が常に最善とは限りません。 例えば、あごの関節部分の骨折では、手術をしない方が口の動きが良くなる場合もある、という研究結果もあります。 そのため、一人ひとりの状態に合わせた治療計画がとても大切なのです。

顔面外- 傷の原因

顔のケガは、普段の生活のふとした瞬間から、予期せぬ事故まで、さまざまな場面で起こりえます。 どのような時にケガをしやすいかを知っておくことは、ご自身や大切な家族を守るための第一歩です。

顔にケガをしてしまう主な原因には、次のようなものがあります。

  • 転ぶ・落ちる 階段で足を踏み外したり、雨の日に滑って転んだりします。 ベッドやイスから落ちてしまうことも、ケガの原因になります。
  • 物や人とぶつかる スポーツ中にボールが顔に当たったり、自転車で物にぶつかったりします。 ラグビーや柔道のように、人と激しく接触するスポーツでも起こりやすいです。
  • 交通事故や暴力 自動車やバイクの事故は、顔に大きなダメージを与えがちです。 残念ながら、けんかなどで殴られてケガをすることもあります。

これらの原因の中でも、特に注意が必要なのが「お酒の飲みすぎ」です。 お酒を飲むと、脳の働きが鈍くなり、注意力が落ちてしまいます。 その結果、足元がふらついて転びやすくなり、顔をケガする危険性が高まるのです。

実は、顔のケガで救急外来に来る方の中には、お酒が関係しているケースが少なくありません。 ある研究では、ケガをした患者さんへ短い時間でお酒との付き合い方をアドバイスすることが、その後の飲酒量を減らすのに役立つと報告されています。 これは、将来のケガを予防することにもつながる、大切なアプローチです。

もしお酒が原因でケガをしてしまったら、それは生活習慣を見直す良い機会かもしれません。 原因を正しく理解し、予防に努めることが何よりも大切になります。

顔面外傷の症状

顔のケガでは、見た目の変化だけでなく、生活に大切な機能にも影響が出ます。 食事や会話などが、うまくできなくなることもあるのです。 以下のようなサインがないか、ご自身やご家族の様子を確認してみましょう。

【チェックリスト】顔のケガで注意したい症状

  • 皮膚や見た目の変化 皮膚の切り傷、すり傷、強くぶつけた際のあざ。 鼻や口の中、歯ぐきから血が出ている。 顔がパンパンに腫れている、触るとひどく痛む。 傷の中に砂や土、ガラスの破片などが入っている。
  • 歯のトラブル 歯が欠けたり、折れたり、グラグラと揺れたりする。 ひどい場合は、歯が完全に抜けてしまうこともある。 冷たい水がしみるなど、歯に激しい痛みを感じる。 (神経がむき出しになっている可能性があります) ものを噛んだ時に、特定の歯だけが痛む。 (歯の根っこが折れているサインかもしれません)
  • 機能や感覚の異常 口が大きく開けられない、または開けにくい。 噛み合わせが普段と違う、しっくりこない感じがする。 食べ物がうまく噛めない、言葉が話しにくい。 頬やあご、唇のあたりがしびれて感覚がにぶい。 ものが二重に見えたり、ぼやけて見えたりする。

これらの症状は、単なる打ち身や切り傷だけではないかもしれません。 特に、歯の異常や噛み合わせの変化、感覚の麻痺は要注意です。

これらは、あごや頬の骨が折れているサインの可能性があります。 骨折を放置すると、顔の形が変わったり、食事がとりにくくなったりします。 後から治すのが難しくなる場合もあるため、早めの受診が大切です。 少しでもおかしいと感じたら、自分で判断せず病院へ相談してください。

顔面外傷の検査・診断

顔をケガした場合、見た目の傷だけでなく、その奥の状態も重要です。 皮膚の下にある骨や歯、神経が傷ついていないかを正確に調べます。 そのために、いくつかの検査を組み合わせて診断することが大切です。

まず、お医者さんがケガの状況をくわしくお聞きします(問診)。

  • いつ、どこで、どのようにしてケガをしましたか?
  • 痛みや腫れの強さはどのくらいですか?
  • 口はスムーズに開けられますか?
  • 歯の噛み合わせは、いつもと変わりありませんか?
  • ものが二重に見えたり、顔の感覚がおかしい部分はありますか?

次に、ケガの状態をよりくわしく調べるため、画像検査を行います。 レントゲン検査やCT検査が主に使われます。

検査の種類

わかること

レントゲン検査

骨折や歯が折れたり抜けたりしていないか、大まかに確認します。

CT検査

骨の複雑な折れ方や、骨のかけらの位置などを立体的に詳しく調べられます。

CT検査は、顔の骨の状態を正確に知るためにとても役立つ検査です。 この検査では微量の放射線を使いますが、安全は十分に考慮されます。

顔の近くには、放射線の影響を受けやすい「目」などの大切な部分があります。 ある研究では、歯科用のCT検査で目に届く放射線量を調べました。 その結果、検査のやり方によって放射線の量が変わると報告されています。

そのため医療機関では、検査範囲を必要最小限にしぼるなどの工夫をします。 このように患者さんの安全を第一に考え、検査を行っています。 これらの結果を総合的に判断し、最適な治療計画を立てていくのです。

顔面外傷の治療

顔のケガの治療は、見た目と機能の両方を元に戻すことが目的です。 「話す」「食べる」「見る」といった大切な働きを取り戻します。 治療法は、ケガをした場所やその程度によって変わります。

【ケガの種類別】主な治療法

  • 皮膚や口の中の傷 傷口をきれいに洗い、ばい菌が入らないように消毒します。 砂やガラスなどが残ると「いれずみ」のようになることがあります。 そのため、傷の中の異物は丁寧に取り除くことが重要です。 傷が大きい場合は、きれいに治るように細い糸で縫い合わせます。
  • 歯のケガ 欠けたり折れたりした歯は、プラスチックなどで形を修復します。 神経まで傷ついている場合は、神経の治療が必要になります。 抜けてしまった歯も、すぐに病院へ行けば元に戻せる可能性があります。
  • 顔の骨の骨折 ずれた骨を元の位置に戻し、動かないように固定するのが基本です。 治療法は、手術をしない方法と、手術をする方法があります。

手術をしない方法と手術をする方法

治療法

内容

手術をしない方法<br>(閉鎖整復:へいさせいふく)

骨折した部分を手術で開けずに治療します。<br>例えば、あごをワイヤーなどで固定し、骨が自然にくっつくのを待ちます。<br>あごの関節の骨折では、手術よりも口の動きが良くなる場合がある、という研究結果もあります。

手術で治す方法<br>(観血的整復固定術:かんけつてきせいふくこていじゅつ)

手術で骨を直接見て、元の位置に戻します。<br>小さな金属の板(プレート)やネジで骨をしっかり固定する方法です。<br>最近では、一人ひとりの骨の状態に合わせた精密な治療計画が立てられます。

どの治療法を選ぶかは、骨折の場所やずれの程度によって決まります。 特にあごの骨折の治療法は、昔ながらの方法から手術へと変化してきました。 しかし、手術が常に最善とは限らず、状態に合わせた治療が大切です。 後遺症を最小限にするためにも、適切な時期に正しい治療を受けましょう。