関節内遊離体

関節を動かした時のひっかかり感や、場所の定まらない痛み。その原因は、関節の中を自由に動き回る「関節ねずみ」こと、関節内遊離体かもしれません。これはケガや病気によってはがれた骨や軟骨のかけらのことです。

このかけらは、ただ浮いているだけではありません。近年の研究で、関節の中にある関節液から栄養をもらい、時間とともに成長することがわかってきました。最初は軟骨のような組織が、やがて硬い骨へと変化していくのです。

放置すると、突然関節が動かなくなる「ロッキング」や、まれに神経を圧迫してしびれを引き起こすこともあります。この記事では、関節内遊離体の原因や症状、最新の治療法まで詳しく解説します。その不快な症状の正体を知り、適切な対処法を見つけましょう。

関節内遊離体の概要

関節内遊離体とは、関節の中にある骨や軟骨のかけらのことです。 ケガや病気が原因となり、骨や軟骨の一部がはがれてしまいます。 そのかけらが関節の中を自由に動き回る様子から、「関節ねずみ」とも呼ばれています。

このかけらは、膝や肘、股関節や足首など、体のさまざまな関節で生じる可能性があります。 かけらがあると、以下のような症状が現れることがあります。

  • ひっかかり感と痛み 関節を曲げ伸ばしする時に、何かが引っかかるような感覚や痛みが出ます。
  • ロッキング かけらが関節のすき間に挟まると、突然激しい痛みが走ります。 そして、関節が固まったように動かせなくなることがあります。

関節内にはがれ落ちたかけらは、ただ浮いているだけではありません。 最近の研究では、かけらの性質が時間とともに変化することが分かっています。

具体的には、軟骨が骨に変わっていくプロセスと似た変化をたどります。 最初は軟骨のような柔らかい組織ですが、徐々に石灰化して硬くなります。 最終的には、硬い骨のような組織へと変化することが報告されています。

症状がなければ治療をせずに様子を見ることもあります。 しかし、痛みやロッキングなどの症状がある場合は、かけらを取り除く治療が検討されます。

関節内遊離体の種類

関節の中を動き回る骨や軟骨のかけら(関節内遊離体)は、ずっと同じ状態ではありません。 関節の中にある関節液から栄養をもらい、時間とともに性質を変えていくことがわかっています。 この変化は、体が骨を作る仕組みである「軟骨内骨化」というプロセスとよく似ています。

近年の研究では、遊離体の成長過程が4つの段階に分けられることが報告されました。

段階

主な成分

特徴

第1段階

線維組織

比較的やわらかい組織で、骨や軟骨の成分はまだ少ない状態です。

第2段階

軟骨組織

軟骨の成分が増え、少しずつ硬さが出てきます。軟骨の主成分であるⅡ型コラーゲン(COL2A1)やアグリカン(ACAN)を作る遺伝子の働きが活発になります。

第3段階

軟骨と骨

軟骨組織の中に、硬い骨の成分が混じり始めます。この時期から石灰化が進み、硬さが増していきます。

第4段階

骨組織

ほとんどが硬い骨の組織に置き換わります。硬い骨を作るⅠ型コラーゲン(COL1A1)などの遺伝子が活発になり、軟骨を作る遺伝子の働きは弱まります。

このように遊離体の性質は、初期のやわらかい状態から硬い骨の組織へと変化していきます。 どの段階の遊離体であるかによって、痛みの出方やひっかかりの強さが変わる可能性があります。 そのため、治療法を考える上で、遊離体の状態を把握することはとても重要になります。

関節内遊離体の原因

関節の中に骨や軟骨のかけらができる原因は、主に2つあります。 一つは「けが」、もう一つは「病気」です。

けがによるもの

スポーツや転倒で関節に強い力が加わり、骨や軟骨が剥がれることがあります。 これを「骨軟骨骨折(こつなんこつこっせつ)」と呼びます。

特に、足首の骨折や脱臼といった大きなけがをした際は注意が必要です。 ある研究では、足首の骨折・脱臼を起こすと、関節内遊離体などの合併症が起こる確率が高まると報告されています。

また、骨折の手術で関節鏡というカメラを用いて内部を詳しく観察すると、レントゲンでは見えなかった軟骨の傷や、小さく隠れたかけらが見つかることは珍しくありません。

病気によるもの

特定の病気が原因で、関節内遊離体ができることもあります。 主な病気には、以下のようなものがあります。

  • 離断性骨軟骨炎(りだんせいこつなんこつえん)
  • 10代から20代の若い方や、スポーツを活発に行う方に多く見られます。
  • 関節の同じ場所に繰り返し負担がかかることで、骨への血の巡りが悪くなります。
  • その結果、骨の一部が弱くなり、表面の軟骨ごと剥がれ落ちてしまいます。
  • 変形性関節症(へんけいせいかんせつしょう)
  • 主に年齢を重ねることで、関節のクッションである軟骨がすり減る病気です。
  • 関節が変形する過程でできる、骨のトゲ(骨棘:こつきょく)の一部が折れてかけらになることがあります。
  • 滑膜骨軟骨腫症(かつまくこつなんこつしゅしょう)
  • 関節を包んでいる「滑膜」という膜から、多数の骨や軟骨のかけらが作られてしまう病気です。
  • なぜこのような変化が起こるのか、詳しい原因はまだ解明されていません。

このように、関節内遊離体の原因は一つではありません。 気になる症状があれば、原因を特定し、適切な対応をとることが大切です。

関節内遊離体の症状

関節内遊離体(関節ねずみ)の症状は、かけらの大きさや場所によって様々です。 かけらがまだあまり動いていない段階でも、鈍い痛みや関節の違和感を覚えることがあります。

かけらが関節の中を動き回るようになると、次のような特徴的な症状が現れます。

  • 痛み 関節を動かすたびに、かけらが骨や軟骨とこすれて痛みが出ます。 かけらが移動するため、痛む場所がその時々で変わることも特徴です。
  • ロッキング 関節のすき間にかけらが挟まり、突然、関節が動かなくなる現象です。 膝の場合、急に伸ばせなくなったり、曲げられなくなったりします。 このとき、しばしば激しい痛みを伴います。
  • 腫れや動かしにくさ 関節の中で炎症が起きると、関節が腫れたり水がたまったりします。 これにより、関節の曲げ伸ばしがスムーズにできなくなることがあります。

これらの症状だけでもつらいものですが、まれに神経を圧迫して重い症状を引き起こすことがあります。 最近の研究では、膝のかけらが「総腓骨神経(そうひこつしんけい)」を圧迫した例が報告されました。

総腓骨神経は、足首や足の指を上に持ち上げる動きを担う大切な神経です。 この神経が圧迫されると、しびれや力の低下が生じることがあります。 さらに、足首が上がらない「足垂れ(あしだれ)」という状態になることも報告されています。

このような神経の症状は、歩行など日常生活に大きな影響をおよぼします。 少しでも気になる症状があれば、放置せずに専門の医師へ相談することが非常に大切です。

関節内遊離体の検査・診断

関節の痛みやひっかかりを感じて病院を訪れると、原因を詳しく調べる検査が行われます。 関節の中は直接見ることができないため、画像検査で中の状態を探っていきます。 主に、X線(レントゲン)検査、CT検査、MRI検査が用いられます。

まず行われることが多いのは、骨の状態を確認するためのX線(レントゲン)検査です。 この検査で、骨が剥がれてできたかけらの有無や、その位置、大きさを確認できます。 しかし、X線検査では軟骨の部分はっきりと映りにくいため、追加の検査が必要になることがあります。

より詳しく調べるために、次のような検査が行われます。

  • CT検査 細かい骨のかけらの形や位置を、より立体的に詳しく調べたい場合に有効です。 X線検査よりも鮮明な画像で、骨の状態を正確に捉えることができます。
  • MRI検査 骨だけでなく、X線では見えない軟骨や、その周りの組織(じん帯、筋肉など)を詳しく確認できます。 正確な診断のためには、MRIの撮影方法を一人ひとりの状態に合わせて最適化することが大切です。 場合によっては、関節に造影剤というお薬を注射してから撮影する関節造影MRIも行われます。 この方法により、関節軟骨や小さくて見えにくい遊離体の状態を、よりはっきりと評価できます。

これらの検査を組み合わせ、関節の中で何が起きているのかを正確に把握し、治療方針を決めます。

検査方法

主に見えるもの

特徴

X線検査

骨

まず行われる基本的な検査です。骨のかけらの有無や大きさを確認します。

CT検査

骨(より詳しく)

細かい骨のかけらの形や位置を、立体的に鮮明に捉えることができます。

MRI検査

骨、軟骨、じん帯など

軟骨や周辺の柔らかい組織の状態を詳しく調べるのに適しています。撮影方法の最適化で、より正確な診断が可能になります。

関節内遊離体の治療

関節内遊離体の治療法は、症状の有無や程度によって変わります。 痛みなどの症状が全くない場合は、特別な治療をせず様子を見ることもあります。 しかし、痛みや関節が動かなくなる「ロッキング」がある場合は治療が必要です。

治療法には、主に「保存療法」と「手術療法」の2つがあります。

保存療法

症状が比較的軽い場合に選ばれることが多い方法です。 痛みや炎症を和らげ、症状の悪化を防ぐことを目的とします。

  • 安静・運動制限 関節に負担をかけないように、スポーツ活動などを一時的にお休みします。
  • 薬物療法 痛みや炎症を抑えるための飲み薬や、関節への注射などを行います。
  • 理学療法 リハビリで関節を支える筋肉を鍛えたり、サポーターを使ったりして関節を安定させます。

手術療法

保存療法で症状が良くならない場合や、日常生活に支障が出る場合に検討されます。 現在では、体への負担が少ない関節鏡(かんせつきょう)手術が主流です。

これは、関節の近くに5mmほどの小さな穴を開け、カメラで中を見ながら行う手術です。 傷が小さく、手術後の痛みが少なく、回復が早いという利点があります。

最近の研究では、足首の骨折治療において、関節鏡手術の有効性が示されました。 関節鏡を使った手術は、関節の動きの回復が良く、痛みをより少なくできる可能性があります。

また、関節鏡手術の大きな利点は、関節の中を直接見て詳しく観察できる点です。 レントゲンでは分かりにくい、隠れた軟骨の傷やじん帯の損傷を見つけ、同時に治療できることもあります。

治療法

どんなときに行う?

どんなことをする?

保存療法

症状が軽い場合

・安静、運動の制限<br>・痛み止めの薬や注射<br>・リハビリや装具の使用

手術療法

痛みが強い、ロッキングがある場合

・関節鏡で遊離体を取り除く<br>・かけらを元の場所に戻し固定する

このほか、ご自身の血液や細胞を利用して組織の修復をうながす「再生医療」が選択肢になることもあります。 どの治療法が最適かは状態によって異なるため、まずは専門の医師に相談することが大切です。