目にゴミが入ったようなゴロゴロ感や、朝起きたときの突然の激痛。その不快な症状は「角膜びらん」、つまり目の表面にできた”すり傷”が原因かもしれません。多くは数日で自然に治るため、「たかがすり傷」と軽く考えてしまいがちです。
しかし、その症状がなかなか治らなかったり、何度も繰り返したりする場合、注意が必要です。その背景には、単なるドライアイやコンタクトレンズの問題だけでなく、梅毒のような全身の病気や、正しい診断がつくまで平均19年もかかったという報告がある遺伝性の難病が隠れている可能性も。
この記事では、角膜びらんの意外な原因から症状、最新の治療法までを詳しく解説します。あなたのその目の不調、放置せずに原因を探ってみませんか?
角膜びらんの概要
目の黒目の部分を「角膜」と呼びます。 角膜びらんとは、この角膜の一番表面をおおっている「角膜上皮」という層が、部分的に剥がれてしまった状態です。 いわば、目の表面にできた、すり傷のようなものだと考えると分かりやすいでしょう。
角膜の傷は、その深さによって2つの状態に分けられます。
- 角膜びらん 角膜の一番外側の層(角膜上皮)にとどまる浅い傷です。
- 角膜潰瘍 傷がより深い層(角膜実質)まで達してしまった状態です。
角膜上皮は、皮膚と同じように新しい細胞に生まれ変わる力がとても活発です。 そのため、角膜びらんのような浅い傷は、数日で後遺症なく治ることがほとんどです。 しかし、傷が深くなり角膜潰瘍にまで進行すると、治った後も角膜が濁ってしまい、視力に影響が残ることがあります。
また、治療をしてもなかなか治らない場合は注意が必要です。 まれに、梅毒のような全身の病気が原因で、治りにくい目の症状を引き起こすことがあります。 海外では、治療に反応しない目の症状を持つ患者さんを詳しく調べたところ、梅毒の感染が見つかったという報告もあります。 目の不調が、体全体の病気のサインである可能性も考えられます。 目に痛みや違和感があれば、自己判断はせず眼科で正確な診断を受けることが大切です。
角膜びらんの種類
ひとくちに角膜びらんといっても、原因はさまざまです。 原因によって、大きく3つの種類に分けられます。
- 外傷性角膜びらん 目に何かが直接当たる「けが」で起こる、最も多いタイプです。 ゴミや逆さまつげが入ったり、爪で目をこすったりすることが原因です。 コンタクトレンズの間違った使い方も、このタイプに含まれます。
- 再発性角膜上皮びらん 一度治ったはずの角膜びらんが、同じ場所に何度も再発する状態です。 特に、朝起きた時に突然、目に激しい痛みを感じることが多くあります。
- 他の病気が原因で起こる角膜びらん 角膜びらんは、他の目の病気が原因で引き起こされることもあります。
- 翼状片(よくじょうへん)に伴うもの 「翼状片」は白目の組織が黒目に伸びてくる病気です。 ある研究では、でき始めの小さな翼状片でも目の表面が乾きやすくなり、 角膜びらんを引き起こす可能性が示されています。
- 遺伝性一過性角膜炎(いでんせいいっかせいかくまくえん) まれな病気ですが、遺伝により角膜の炎症やびらんを繰り返します。 症状が「再発性角膜びらん」と似ているため、間違われやすいです。 海外の調査では、正しい診断がつくまで平均で19年もかかった、 という報告もあり、診断が非常に難しい病気の一つです。
このように、角膜びらんには様々な背景が考えられます。 気になる症状があれば、自己判断せずに眼科を受診することが大切です。
角膜びらんの原因
角膜びらんの原因は、日常生活のささいなことから、体の病気までさまざまです。 原因を知ることで、目の健康を守るための予防にもつなげられます。
角膜びらんの主な原因は、大きく4つに分けられます。
- 外からの物理的な刺激 目の表面は非常にデリケートなため、物理的な刺激で簡単に傷つきます。
- コンタクトレンズの間違った使い方 決められた時間以上使う、つけたまま寝る、洗浄が不十分などです。 レンズで角膜が酸素不足になったり、乾いたりして傷つきやすくなります。
- 外傷(ケガ) ゴミや砂、逆さまつげが入る、爪で目をこするなどがあります。 スポーツでボールが当たることも、よくある原因の一つです。
- 目の病気や状態 目の状態が悪いと、まばたきのような日常的な動きでも傷つくことがあります。
- ドライアイ 涙の量が減ったり質が悪くなったりすると、角膜を守る力が弱まります。 涙のバリアが薄くなり、まぶたと角膜がこすれやすくなるためです。
- 感染症 単純ヘルペスウイルスや細菌などが角膜で増え、炎症を起こします。
- 全身の病気 体全体の健康状態が、目の健康に影響を及ぼすこともあります。
- 糖尿病 血糖値が高い状態が続くと、全身の血行が悪くなります。 角膜の細胞を修復する力が落ち、傷が治りにくくなります。
- 遺伝的な要因 まれですが、生まれつきの体質が原因で角膜びらんを繰り返すことがあります。
- 角膜ジストロフィ 遺伝的に角膜がもろくなる病気で、軽い刺激でもびらんを起こしやすいです。
- 遺伝性一過性角膜炎(KFH) 海外の研究では、この病気が「再発性角膜びらん」と間違われやすいことがわかっています。 正しい診断がつくまで平均19年もかかった、という報告もあるほどです。 何度も角膜びらんを繰り返す場合は、背景に病気が隠れている可能性も考えられます。
角膜びらんの症状
角膜びらんになると、目に様々なサインが現れます。 黒目の表面にある、レンズのように透明な角膜はとてもデリケートです。 ここに傷がつくことで、以下のような症状がみられるようになります。
<角膜びらんの主な症状>
- 目の痛みやゴロゴロ感 目にゴミが入ったような違和感や、チクチクする痛みを感じます。 まばたきをするたびに、痛みが強くなることもあります。
- 目の充血 傷による炎症で、白目の血管が広がり赤く見える状態です。
- 涙がたくさん出る 傷や異物を洗い流そうとする、体の自然な防御反応です。
- 見え方がおかしい 角膜の表面がデコボコになるため、ものがかすんだりぼやけたりします。
- 光をまぶしく感じる 傷ついた部分で光が乱反射し、普段よりまぶしく感じやすくなります。
これらの症状は一つだけではなく、複数が同時に起こることも珍しくありません。 特に、朝起きた時に突然、目に激しい痛みを感じる場合は注意が必要です。 これは「再発性角膜びらん」という、同じ場所に傷が再発する状態かもしれません。
また、角膜びらんのような症状は、他の病気や薬が原因の場合もあります。 例えば、緑内障の治療で使う一部の目薬には、副作用として角膜びらんが起こることが報告されています。 さらに、何度も症状を繰り返す場合、遺伝性のまれな病気が隠れている可能性も考えられます。 海外の研究では、角膜びらんを繰り返す遺伝性の病気が、正しい診断がつくまで平均で19年もかかったという報告もあります。
目に少しでも違和感があれば、自己判断で様子を見ずに眼科を受診し、原因を正確に調べてもらうことが大切です。
角膜びらんの検査・診断
目に痛みやゴロゴロ感などの症状で眼科を受診すると、 まず角膜の状態を詳しく調べる検査から始まります。 問診で症状や生活習慣をうかがったうえで、 主に次の検査を組み合わせて診断を進めていきます。
- 細隙灯(さいげきとう)顕微鏡検査 スリットランプとも呼ばれる、目のための特別な顕微鏡です。 細い光を目に当てながら拡大して観察することで、 角膜の傷がどのくらいの深さなのかを正確に確認します。
- フルオレセイン染色検査 角膜の傷を見やすくするための検査です。 フルオレセインという黄色の染色液を目に垂らします。 角膜に傷があると、その部分だけが青い光で緑色に染まります。 この検査により、肉眼では見つけにくい小さな傷もはっきりとわかります。
これらの検査で傷の有無は確認できますが、 本当に大切なのは「なぜ角膜びらんが起きているのか」という原因を探ることです。 特に、何度も症状を繰り返す場合は注意深く原因を探る必要があります。
例えば、まれな病気ですが「遺伝性一過性角膜炎(KFH)」は、 再発性の角膜びらんと間違われやすいことが知られています。 海外の調査では、この病気の正しい診断がつくまでに、 平均で19年もかかってしまったという報告もあるほどです。 この調査では、最も多い誤診は目の炎症である「前部ぶどう膜炎」でした。
このように、似た症状を持つ他の病気と区別するため、 原因に応じて次のような追加の検査を行うこともあります。
- 感染症の検査 細菌やウイルスの感染が疑われる場合に行います。 目の表面をこすって細胞を採り、原因となる病原体を特定します。 原因に合った薬を選ぶために、とても重要な検査です。
- 血液検査 糖尿病のような全身の病気が、目の不調に関わっている場合に検討されます。
これらの検査結果を総合的に判断し、診断を下します。 自己判断で放置せず、気になる症状があれば眼科を受診するようにしましょう。
角膜びらんの治療
角膜びらんの治療で最も大切なことは2つです。 傷ついた角膜を保護すること、そして細菌の感染を防ぐことです。 傷の深さや原因を正確に調べ、状態に合った治療を選びます。
治療の基本は、薬を使って目の治る力をサポートすることです。 主に、以下の方法を組み合わせて治療を進めます。
- 目の表面を保護し、傷の治りを助けるための目薬を使います。
- ヒアルロン酸ナトリウムなど、目のうるおいを保つ成分が有効です。
- 細菌の感染を防ぐために、抗生物質の目薬を併用することもあります。
- まばたきが減る睡眠中は目が乾燥しやすいため、特に効果的です。
- 寝ている間、長時間にわたって目の表面を保護するために使います。
- 傷の上に「ばんそうこう」のように乗せる、特別なレンズです。
- まばたきの刺激から角膜を守り、つらい痛みを和らげます。
なかなか治らない場合や感染を伴う場合は、特別な治療も検討します。 例えば「角膜クロスリンキング(CXL)」という治療法があります。 これは特殊な光を使い、角膜の組織を強くして病原体への抵抗力を高めます。 海外の研究では、このCXLが感染を伴う角膜炎の治療にも有効とされています。 これは、治療の過程で生まれる活性酸素が、細菌を直接攻撃してくれるためです。
また、角膜びらんの原因が、他の病気の治療薬である可能性も考えます。 緑内障の治療で使う一部の目薬(Rhoキナーゼ阻害剤など)が、 副作用として角膜びらんを引き起こすことが報告されています。 原因となっている病気の治療と合わせ、薬の見直しも大切です。
いずれの治療も、自己判断で行わず必ず眼科医の指示に従ってください。