膝関節脱臼
「膝の脱臼」と聞くと、お皿が少しずれる程度のケガだと思っていませんか?しかし、本来の膝関節脱臼は、太ももとすねの骨が完全に外れる、足の未来を左右しかねない非常に重いケガなのです。
このケガの本当の恐怖は、骨がずれること自体ではありません。ある研究レビューでは、約15.3%で神経損傷が、約7.8%で血管損傷が起こると報告されています。もし足の命綱ともいえる血管が傷つけば、最悪の場合、足を切断する事態にもなりかねません。
この記事では、交通事故から日常のささいな転倒まで、誰にでも起こりうる膝関節脱臼の本当の恐ろしさと、後遺症を防ぐために絶対に見逃してはいけない危険なサインについて詳しく解説します。
膝関節脱臼の概要
膝関節脱臼は、膝のお皿がずれる「膝蓋骨脱臼」とは全く違います。 太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)をつなぐ関節が、 完全にずれてしまう、非常に重いケガのことを指します。
交通事故やスポーツでの激しい接触など、とても大きな力で起こります。 ある研究レビューでは、特に若い男性に多いと報告されています。 このケガで最も注意すべき点は、骨のズレだけではありません。 膝の周りにある、足にとって重要な組織も同時に傷つくことです。
膝関節脱臼で傷つきやすい組織
- 靭帯や半月板 ひざを安定させる靭帯やクッション役の半月板が傷つきます。 半月板は50%以上の確率で損傷するという報告もあります。
- 血管 ひざ裏の太い血管が傷つくと、足に血が通わなくなります。 血管損傷の合併率は約7.8%で、緊急手術が必要です。
- 神経 足の感覚や動きを支配する神経が傷つくこともあります。 約15.3%で神経損傷が起こり、後遺症が残る恐れがあります。
このように膝関節脱臼は、足そのものの機能が失われかねません。 迅速な診断と治療が必須で、その後の生活にも影響を与えます。 多くの人が仕事やスポーツへの復帰が難しくなるという報告もあり、 長期的な視点で向き合う必要があるケガなのです。
膝関節脱臼の種類
膝関節脱臼は、骨がどの方向にずれたかによって分類されます。 また、靭帯などの周りの組織がどれだけ傷ついたかでも分けられます。 この分類は、ケガの重さを知り、治療法を決める上でとても重要です。
まず、骨がずれる方向による分類です。 これは、すねの骨が太ももの骨に対してどっちへ動いたかで決まります。
- 前方脱臼 膝が本来曲がらない方向に、反り返るような強い力で起こります。
- 後方脱臼 膝を曲げた状態で、すねに後ろ向きの強い力が加わると起こります。
- その他 まれに内側や外側、あるいはねじれるようにずれることもあります。
次に、膝を支える靭帯の損傷の程度による分類があります。 これはケガの重症度を知るための、非常に大切な分け方です。 ある研究レビューでは、複数の靭帯が傷つく重症例が多いとされます。 具体的には「KD Ⅲ型」と「KD Ⅳ型」で全体の7割以上を占めます。
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分類 |
損傷の状態 |
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KD Ⅰ型 |
靭帯が1本だけ損傷している状態 |
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KD Ⅱ型 |
靭帯が2本損傷している状態 |
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KD Ⅲ型 |
靭帯が3本損傷している状態 |
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KD Ⅳ型 |
4本の主要な靭帯がすべて損傷している状態 |
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KD Ⅴ型 |
脱臼に骨折を伴う状態 |
このほか、ケガではなく生まれつき膝が脱臼している状態もあります。 これを「先天性膝関節脱臼」と呼びます。 どの種類の脱臼でも、血管や神経を傷つける危険性があります。 そのため、速やかに専門医の診察を受けることが何よりも大切です。
膝関節脱臼の原因
膝関節脱臼は、膝にとても大きな力がかかることで起こる重いケガです。 原因は大きく分けて2つあります。 一つは強い衝撃が加わる「高エネルギー外傷」です。 もう一つは、比較的小さな力で起こる「低エネルギー外傷」です。
高エネルギー外傷(大きな力が加わる場合)
脱臼のほとんどは、この高エネルギー外傷が原因です。 ある研究レビューによると、膝関節脱臼は特に若い男性に多く見られます。 その多くは、以下のような強い衝撃によって引き起こされています。
- 交通事故 自動車やバイクの事故で、ダッシュボードに膝を強く打ちつけます。 この時、すねの骨が後ろに押し出されて脱臼することが多いです。
- スポーツ ラグビーや柔道など、選手同士が激しくぶつかることで起こります。 タックルを受けたり、無理な方向に膝をひねられたりすることが原因です。
- 転落事故 高い場所から落ちた時の着地の衝撃で、膝に大きな力が加わります。
低エネルギー外傷(比較的小さな力が加わる場合)
一見すると脱臼するとは思えない、ささいなきっかけでも起こります。 「こんなことで?」と思うような、日常の動作が原因になることもあります。
- 日常生活での転倒など くぼみや穴に足を踏み外したり、転んだりした際に発生します。 特に、肥満の傾向がある方は注意が必要です。 ご自身の体重が常に膝への大きな負担となり、軽い動作でも脱臼しやすくなります。
膝関節脱臼の症状
膝関節脱臼が起こると、非常に強い痛みを感じます。 同時に、見た目にも明らかな膝の変形が生じます。 膝が本来曲がらない方向に曲がるなど、誰の目にも異常だとわかります。
しかし、外れた関節が自然に元の位置に戻ることもあります。 その場合でも、内部の靭帯などはひどく損傷しています。 そのため、以下のような症状が残り、決して安心はできません。
- 激しい痛み じっとしていてもズキズキと痛みます。
- ひどい腫れ 内出血により、膝がパンパンに腫れあがります。
- 不安定感 膝に力が入らず、体重を支えられなくなります。
特に注意すべきは、血管や神経が傷ついた時の症状です。 これは足の機能を失ったり、切断に至ることもある危険なサインです。 ある研究レビューでは、神経損傷が約15.3%、血管損傷が約7.8%で 見られたと報告されており、決してまれなことではありません。
【危険なサイン:すぐに医療機関へ】
- 血管の損傷が疑われる症状
- ひざの裏がパンパンに張り、圧迫される感じがする
- すねや足が青白くなったり、紫色になったりする
- 足を触ると、反対側の足より明らかに冷たい
- 神経の損傷が疑われる症状
- すねや足の感覚が鈍い、または全く感じない
- しびれがある
- 足首や足の指を自分の力で動かせない
もし膝に大きなけがをして、上記に一つでも当てはまる場合は、 自己判断せず、ただちに救急車を呼ぶか医療機関を受診してください。
膝関節脱臼の検査・診断
膝に強い痛みや変形、ひどい腫れがある場合、膝関節脱臼が疑われます。 たとえ見た目が元に戻っているように見えても、決して油断はできません。 関節の内部では、靭帯や血管などがひどく傷ついている恐れがあります。
医療機関では、まず問診でケガの状況を詳しく伺い、膝の状態を診ます。 そして、正確な診断のために以下のような検査を迅速に行います。
- X線(レントゲン)検査 骨の状態を確認するための、基本となる検査です。 骨がどの方向にずれたのか、骨折を伴っていないかを調べます。
- 血管や神経の評価 膝関節脱臼の診断で、最も重要といえるのがこの評価です。 膝の裏には、足の命綱ともいえる太い血管や神経が通っています。 ある研究レビューでは、約15.3%で神経が、約7.8%で血管が 同時に傷つくと報告されており、この見極めが予後を大きく左右します。
- ABI(足関節上腕血圧比)検査 腕と足首の血圧を測って比べることで、足への血流を評価します。 この数値が基準より低い場合、血管損傷が強く疑われます。
- CT血管造影検査 造影剤という薬を使い、血管の損傷をより詳しく調べる精密検査です。 血管がどこで、どのように傷ついているかを正確に突き止めます。
これらの検査で血管や神経の損傷を見逃さないことが何より重要です。 特に血管の損傷は、8時間以内に手術が必要になることもあります。 迅速で正確な診断が、足の機能を守り、後遺症を防ぐための第一歩なのです。
膝関節脱臼の治療
膝関節脱臼は、足の機能を失いかねない非常に重いケガです。 そのため、治療は時間との勝負であり、迅速な対応が求められます。 治療は主に、以下の3つのステップで丁寧に進められます。
1. 緊急処置(関節を元の位置に戻す) まず、外れた関節をできるだけ早く元の位置に戻す「整復」を行います。 ずれた骨が、足の命綱である血管や神経を圧迫し続けるのを防ぐためです。 多くの場合、痛みを和らげる処置をしながら、医師が手で整復します。
2. 合併症の確認と緊急治療 整復と同時に、最も危険な合併症である血管や神経の損傷を調べます。 もし膝裏の太い血管が傷ついている場合、足に血液が届かなくなります。 この場合、8時間以内に緊急手術で血管をつなぎ直す必要があります。 この時間を過ぎると、足の組織が壊死してしまう危険性が高まります。
3. 膝の安定を取り戻すための治療 整復後は、ギプスや創外固定器という装置で膝をしっかりと固定します。 膝関節脱臼では複数の靭帯が断裂していることがほとんどです。 そのため、膝の腫れが落ち着いた後、靭帯を再建する手術を行います。
近年、この手術では特殊なテープで靭帯を補強する技術も使われます。 ある研究のレビューでは、この方法を用いた場合の失敗率は0~13.6%と低く、 術後の経過も良好な傾向にあることが報告されています。 ただし、術後に関節が硬くなることもあるため、丁寧なリハビリが必須です。










