糖尿病黄斑浮腫
「最近、文字がかすむ」「カレンダーの線がゆがんで見える」そんな症状を、年のせいだと見過ごしていませんか?その見え方の変化は、糖尿病の合併症である「糖尿病黄斑浮腫」のサインかもしれません。
この病気は、糖尿病患者さんのおよそ7%が発症するといわれており、決して他人事ではありません。放置すれば視力が大きく低下し、回復が難しくなることも。しかし、近年では治療法が大きく進歩しており、患者さんの負担を減らせる可能性も出てきています。
この記事では、大切な視力を守るために知っておきたい糖尿病黄斑浮腫の原因や症状、そして注射の回数を減らせる可能性のある新しい治療の選択肢について、詳しく解説していきます。
糖尿病黄斑浮腫の概要
糖尿病黄斑浮腫(とうにょうびょうおうはんふしゅ)は、糖尿病の合併症が原因で起こる目の病気です。
ものを見るときに、ピントを合わせる中心部分を「黄斑(おうはん)」と呼びます。
この黄斑は、文字を読んだり人の顔を見たりするために、とても重要な役割を担っています。
糖尿病で血糖値が高い状態が長く続くと、目の奥にある網膜の血管が傷つきやすくなります。
傷ついた血管からは、血液の中の水分などが漏れ出してしまいます。
その結果、黄斑部分が水ぶくれのようにむくんでしまうのが、この病気です。
統計によると、糖尿病の患者さんのおよそ7%が、この病気を発症するといわれています。
放置すると、視力が大きく低下し、回復が難しくなることもあるため注意が必要です。
しかし、近年では治療法が大きく進歩しています。
中心となる治療は、目のむくみを抑えるお薬(抗VEGF薬)を目に直接注射する方法です。
さらに新しい研究では、この注射治療に特殊なレーザー治療を組み合わせる方法が注目されています。
新しい治療の選択肢
・期待できる効果
・視力が低い状態から治療を始める場合に、目の注射の回数を減らせる可能性があります。
・その他の効果
・視力の改善や、網膜のむくみ(厚み)を減らす効果も期待されています。
このように、治療法の進歩によって患者さんの負担を軽くできる可能性が出てきました。
どのような病気かを知り、早く見つけて治療を始めることが、大切な視力を守るためにとても重要です。
糖尿病黄斑浮腫の種類
糖尿病黄斑浮腫は、ものを見る中心「黄斑」がむくむ病気です。
このむくみの状態によって、大きく2つのタイプに分けられます。
ご自身の目の状態がどちらのタイプかを知ることは、とても大切です。
なぜなら、タイプによって治療の進め方が変わることがあるからです。
むくみの広がり方でわかる2つのタイプ
糖尿病黄斑浮腫は、主に以下の2種類に分類されます。
これは、血管から水分が漏れ出す範囲の違いによる分け方です。
種類 | 特徴
局所性(きょくしょせい) | 網膜にある血管の一部にできた、小さなこぶ(微小血管瘤)など、特定の場所から水分が漏れてむくみが起こります。
弥漫性(びまんせい) | 広い範囲で毛細血管が傷んでしまい、そこから水分がじわじわと染み出して、広範囲にむくみが起こります。
このように、むくみの原因となる血管の状態によってタイプが異なります。
どちらのタイプなのかを正確に診断することが、治療の第一歩となります。
種類によって変わる治療の選択肢
どのタイプの黄斑浮腫かによって、治療の選択肢が変わってきます。
例えば、治療を始める前の視力が低い患者さんでは、新しい研究が進んでいます。
目の注射治療に特殊なレーザー治療を組み合わせることで、注射の回数を減らせる可能性が示されています。
また、使われるお薬にも様々な種類があります。
・アフリベルセプト
・治療前の視力が良くない場合でも、長期的に視力の改善が
期待できると報告されています。
・ブロルシズマブ
・網膜のむくみ(厚み)を、より効果的に減らすことが
期待される新しいお薬です。
このように、患者さん一人ひとりの状態に合わせた治療が可能になってきています。
ご自身の目の状態に合った治療法について、医師とよく相談することが重要です。
糖尿病黄斑浮腫の原因
この病気のいちばんの根本的な原因は、血液中の糖分が多い「高血糖」の状態が長く続くことです。
高血糖が続くと、目の一番奥にある網膜(もうまく)の細い血管が、少しずつダメージを受けてもろくなります。
傷ついて弱くなった血管の壁は、まるで古いゴムホースのように、隙間から中の水分が漏れやすくなります。
漏れ出た水分などが、ものを見る中心である「黄斑」にたまり、むくみを引き起こすのです。
しかし、原因は高血糖だけではありません。
以下の要因が重なると、発症しやすくなったり、悪化したりすることが知られています。
・糖尿病を患っている期間
・長い期間、高血糖にさらされるため、血管の傷みが蓄積します。
・糖尿病網膜症の進行
・網膜症が進んでいること自体が、血管が傷んでいる証拠です。
・高血圧
・血管に常に強い圧力がかかり、血管の壁をさらに傷つけます。
・脂質異常症
・血液中の余分な脂質が、血管の壁に付着して傷つけます。
このように、原因は複雑に絡み合っています。
そのため、血管が傷つく仕組みを抑える新しい治療法の研究も世界中で行われています。
例えば、血管の炎症に関わる「AOC3」という物質の働きを抑える飲み薬の開発が進められました。
しかし、その研究では安全面で大きな問題はなかったものの、病気の進行を抑える明確な効果は確認できませんでした。
このことからも、現時点では根本原因である血糖の管理が、何よりも大切であるとわかります。
糖尿病黄斑浮腫の症状
糖尿病黄斑浮腫の症状は、ゆっくりと現れるのが特徴です。
そのため、ご自身では「年のせいかな?」などと感じ、気づきにくいことが少なくありません。
ものを見る中心の「黄斑」がむくむことで、見え方に様々な変化が起こります。
こんな見え方はありませんか?
次のような症状に心当たりがないか、チェックしてみましょう。
片目ずつ隠して確認すると、左右の目の違いに気づきやすくなります。
・ものがぼやける、かすんで見える(視力低下)
新聞や本の文字が読みにくくなったり、人の顔の輪郭がはっきりしなくなったりします。
・直線がゆがんで見える(変視症)
カレンダーのマス目や、窓枠、お風呂のタイルなどの直線が、ぐにゃりと波打って見えます。
・色の区別がつきにくい
全体的に景色が薄暗く、セピア色のように見えることがあります。信号の色なども見分けにくくなります。
・視界の中心が暗く見える(中心暗点)
見たいと思う中心部分に、黒い影や点が現れて見えなくなります。
これらの症状は、ある日突然起こるわけではありません。
数ヶ月という時間をかけて、ゆっくりと悪化していくのが特徴です。
また、両目に症状が出ることが多く、生活の質に大きな影響を与えます。
眼科では「見え方」を数値で評価します
眼科では、皆さんが感じる「見えにくさ」を客観的な数値で評価します。
例えば、視力低下の程度は「最良矯正視力(BCVA)」で確認します。
これは、メガネやコンタクトレンズで矯正しても、視力が上がらない状態を指します。
また、症状の原因である網膜のむくみの度合いは、「中心窩網膜厚(CST)」という指標で測定します。
この厚さを数値で把握することで、病気の進行度を正確に判断できるのです。
見え方に少しでも違和感があれば、決して自己判断はしないでください。
できるだけ早く眼科を受診し、検査を受けることが、大切な視力を守るための第一歩です。
糖尿病黄斑浮腫の検査・診断
「ものがゆがんで見える」などの症状から、この病気が疑われる場合、眼科ではいくつかの詳しい検査を行い、目の状態を正確に把握します。
診断を確定し、一人ひとりに合った治療法を見つけるための大切なステップです。
まず、視力や眼圧といった基本的な測定を行います。
あわせて、目の奥の状態を直接観察する「眼底検査」は欠かせません。
この検査では、目薬で瞳孔を大きく広げます。
部屋の隅々まで見るために、ドアを大きく開けるのと同じです。
こうすることで、網膜の細部まで詳しく観察できます。
さらに、より正確な診断のために、次のような専門的な検査を行います。
検査の種類 | この検査でわかること
OCT(光干渉断層計)検査 | 網膜に特殊な光を当て、その断面図を撮影します。黄斑のむくみの厚さを、μm(マイクロメートル)という単位の数値で正確に把握できます。
蛍光眼底造影検査 | 腕の血管から造影剤というお薬を注射します。目の血管から血液の成分が漏れている場所や、血液の流れが悪い場所を特定できます。
特にOCT検査は、診断だけでなく治療効果の判定にも使われる重要な検査です。
また、この検査で網膜の表面に膜が張り、網膜を引っ張る状態(黄斑前膜など)がないかも確認します。
以前は、このような状態に手術(硝子体切除術)が検討されることもありました。
しかし、最近の研究では、現在の中心的な治療である注射に手術を追加しても、必ずしも視力の改善効果が高まるわけではないことが報告されています。
これらの検査結果を総合的に判断し、診断を確定します。
そして、患者さん一人ひとりの状態に合わせた治療方針を丁寧に決めていきます。
糖尿病黄斑浮腫の治療
糖尿病黄斑浮腫の治療目標は、視力の低下を防ぎ、見え方を改善することです。
その大前提として、原因である糖尿病の血糖コントロールをしっかり行うことが欠かせません。
眼科では、その上で目に直接アプローチする専門的な治療を行います。
治療の主役は「抗VEGF療法」
現在の治療の中心は、目の中にお薬を直接注射する「抗VEGF療法」です。
むくみの原因であるVEGF(血管内皮増殖因子)という物質の働きを抑えます。
このVEGFは、血管から水分が漏れ出すのを促してしまうため、その働きを止めるのです。
お薬にはいくつか種類があり、患者さんの状態に合わせて使い分けます。
・アフリベルセプト
・治療を始める前の視力が良くない場合でも、長期的に視力の改善が期待できるという報告があります。
・ブロルシズマブ
・網膜のむくみを、より効果的に減らすことが期待できるお薬です。
治療を助ける「レーザー光凝固術」
レーザーで、水分が漏れている血管を焼き固める治療法です。
以前は中心的な治療でしたが、現在は注射治療を補助する役割を担います。
新しい研究では、特殊なレーザーと注射を組み合わせる方法が注目されています。
特に治療開始時の視力が低い方では、注射の回数を減らせる可能性が示されました。
特別な状況で行う「硝子体手術」
目の中の出血が多い場合や、網膜が膜に引っ張られている場合に検討します。
しかし、注射治療の効果が非常に高いため、手術を追加しても必ずしも視力がさらに改善するわけではない、という研究結果もあります。
これらの治療法から、一人ひとりの目の状態を総合的に判断し、最適な方針を決定します。













