未熟児網膜症

赤ちゃんが未熟児網膜症と診断され、将来の視力に不安を感じていませんか。この病気は現在、小児の失明原因の第1位を占めています。周産期医療の進歩で救われる命が増えた一方で、重症化する赤ちゃんの数は増加傾向にあるとされています。

この記事では、未熟児網膜症がなぜ起こるのかという原因から、病気の進行度を示す分類、検査、そして治療法までを詳しく解説します。標準的なレーザー治療や新しい薬物治療など、それぞれの選択肢についてもわかりやすく説明します。

本記事を読み進めることで、病気への正しい理解が深まり、医師との円滑なコミュニケーションにつながります。赤ちゃんの視力を守るために今何ができるのか、最善の道筋を見つけるための一助となるはずです。

未熟児網膜症の概要

未熟児網膜症は、予定日より早く、特に体が小さく生まれた赤ちゃんの目に起こる病気です。

お母さんのお腹の中にいる間、目の奥にある「網膜」という組織の血管は、妊娠36週~42週頃にかけてゆっくりと隅々まで伸びて完成します。しかし、それよりも早く生まれると、網膜の血管が未完成な状態で成長が止まってしまいます。

その後、急激な環境の変化にさらされることで、血管が本来とは違う異常な方向に伸びてしまうことがあり、これが未熟児網膜症の発症につながります。

この病気が進行すると、異常に増えた血管が網膜を引っ張って「網膜剥離」という状態を引き起こし、重い視力障害や失明に至る可能性があります。

近年の周産期医療の進歩により、以前は救えなかった小さな命も助かるようになりました。その一方で、重症の未熟児網膜症を発症する赤ちゃんは増加傾向にあり、現在では小児の失明原因の第1位を占めています。

だからこそ、赤ちゃんの視力を守るためには、早期発見と正確な診断が何よりも重要です。最近では、診断の精度をさらに高めるために、AI(人工知能)を用いた画像診断アルゴリズムの開発も世界中で進められています。※

未熟児網膜症の種類

未熟児網膜症は、病状を正確に把握し、適切な治療方針を立てるために、国際的な基準や日本の基準を用いて分類されます。

主に使われるのは、病気の進行スピードに注目した日本の「厚生省分類」と、病気の場所や進行度を細かく評価する世界的な「国際分類」です。この分類は、赤ちゃんの目の状態を正確に見極め、今後の治療方針を決めるための大切な指標になります。

それぞれの分類法が何を評価するのか、下表に整理します。

分類法 | 何を評価するか?

厚生省分類 | ・病気の進行スピード(活動性) ・治った後の「きずあと」の状態

国際分類 | ・病変の場所(Zone) ・病気の進行段階(Stage) ・重症化のサイン(plus disease)

厚生省分類

これは、病気がどれくらいの速さで進行するかという「活動性」に注目した、日本で使われている分類法です。病気が進行中の「活動期」と、活動が治まった後の「瘢痕期(はんこんき)」に分けて評価します。

活動期の分類

病気の勢いに応じて、大きく2つのタイプに分けられます。

・I型(緩進型)

比較的ゆっくりと進行するタイプで、自然に落ち着いて治ることも期待できます。

・II型(急進型)

急速に悪化しやすく、網膜剥離などを引き起こす可能性が高い重症型です。迅速な治療が求められます。

瘢痕期の分類

病気の活動が治まった後に残る、網膜の「きずあと」の状態を評価します。きずあとの程度によって1度から5度に分類され、将来的な視力への影響を予測する目安の一つとされています。

国際分類

国際分類は、世界中の医師が共通の認識で診断・治療にあたるために用いられる基準です。「どこに(Zone)」「どのくらい(Stage)」病気が進んでいるかを客観的に評価します。

病気の場所(Zone)

網膜を3つの領域に分け、どの場所で病気が起きているかを示します。視力にとって最も重要な中心部(Zone I)に近いほど、重症と判断されます。

・Zone I: 視神経を中心とする、網膜で最も重要な中心エリア。

・Zone II: Zone Iを囲む中間エリア。

・Zone III: 網膜の最も外側の周辺エリア。

病気の進行段階(Stage)

血管の異常がどの程度進んでいるかを、1〜5の段階で評価します。Stageが進むほど、網膜剥離のリスクが高まります。

Stage | 網膜の状態

1 | 正常な血管と血管のない領域の間に、境界線ができる

2 | 境界線が壁のように盛り上がる

3 | 異常な血管が、目の内部(硝子体)に向かって伸び始める

4 | 異常な血管が網膜を引っ張り、部分的に網膜がはがれる(部分網膜剥離)

5 | 網膜全体がはがれてしまう(全網膜剥離)

重症化のサイン

上記の分類に加えて、病気の勢いが強く、急速に悪化する危険性を示すサインがあります。

・plus disease(プラス病変)

網膜の中心部にある血管が異常に太く、曲がりくねっている状態です。病気の活動性が非常に高いことを示す「危険信号」であり、厳重な経過観察や早期の治療が必要になります。

・AP-ROP (Aggressive Posterior ROP)

Zone I または Zone II の後方で急速に進行する、最も重い病型です。厚生省分類のII型に相当し、緊急の治療を要します。

これらの分類は専門的で複雑に聞こえるかもしれません。しかし、赤ちゃんの目の状態を正確に把握し、最善の治療を選択するためには不可欠です。医師から説明を受ける際に、わからないことは遠慮なく質問してください。赤ちゃんの視力を守るために、一緒に病気と向き合っていきましょう。

未熟児網膜症の原因

未熟児網膜症が起こる根本的な原因は、赤ちゃんの目の奥にある「網膜」の血管が、完成する前に生まれてしまうことにあります。

お母さんのお腹の中にいる間、網膜の血管は胎齢14週ごろから少しずつ伸び始め、予定日(妊娠36~42週頃)近くになってようやく隅々まで完成します。しかし、それより早く生まれると、血管がまだ網膜の全体に行き渡っていない「未完成」な状態で、お腹の中とは全く異なる環境に置かれることになります。

この急激な環境の変化が引き金となり、正常な血管の成長が一度ストップしてしまいます。

その結果、血管がまだ届いていない網膜の周辺部分は酸素や栄養が足りない状態に陥ります。網膜はこれを「緊急事態」と判断し、酸素不足を補おうとして「血管をつくれ」というSOS信号(VEGF:血管内皮増殖因子)を過剰に放出します。

このSOS信号に反応して急ごしらえで作られた血管は、もろくて質が悪く、本来伸びるべき方向とは違う網膜の表面や目の内部(硝子体)に向かって無秩序に伸びてしまいます。これが未熟児網膜症の正体です。

以前は、保育器で使われる高濃度の酸素が主な原因だと考えられていた時代もありました。しかし研究が進んだ現在では、赤ちゃんの血管そのものの未熟さを土台として、以下のような要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。

・出生時の体重(特に小さいほどリスクが高い)

・在胎週数(特に週数が短いほどリスクが高い)

・遺伝的な要因 など

このように、未熟児網膜症はさまざまな要因が重なって起こるものであり、早産で生まれた赤ちゃんにとっては「避けがたい」側面を持つ病気といえます。※ 決して、お父さんやお母さんのせいではありません。

未熟児網膜症の症状

未熟児網膜症の症状は、目の奥で静かに進行するため、赤ちゃんの見た目の変化から気づくことはできません。そのため、定期的な眼底検査で病気の進行段階(ステージ)を正確に把握することが、赤ちゃんの視力を守る上で何よりも重要です。

病気の進行度は、国際分類で定められた5つのステージで評価されます。ステージが進むほど、網膜剥離のリスクが高まります。

Stage | 目の内部で起きていること

1 | ・血管がある領域とない領域の境目に、白くはっきりとした線が現れる ・これは、血管の正常な成長が止まってしまったサイン

2 | ・Stage 1の境界線が、壁のように立体的に盛り上がった状態(リッジ)になる

3 | ・リッジから、酸素不足を補おうとする質の悪い血管(新生血管)が、目の内部(硝子体)に向かって伸び始める ・この血管は非常にもろく、網膜を引っ張る原因となる

4 | ・新生血管が網膜を強く引っ張ることで、網膜の一部がはがれてしまう(部分網膜剥離) ・視力に最も重要な中心部(黄斑)が剥がれると、視力への影響が大きくなる

5 | ・網膜剥離がさらに広がり、網膜全体がはがれてしまった状態(全網膜剥離) ・この段階に至ると、重い視力障害や失明につながる可能性がある

これらのステージは必ずしも順番に、ゆっくりと進行するわけではありません。赤ちゃんの状態によっては、ある時点から急激に悪化することもあります。

だからこそ、赤ちゃんに変わった様子が見られなくても、退院後も医師の指示に従って定期的な眼底検査を必ず受け、病気の進行を注意深く見守っていくことが大切です。

未熟児網膜症の検査・診断

未熟児網膜症は、赤ちゃんの外見からは全くわからないため、専門医による定期的な「眼底検査」が診断の唯一の手がかりとなります。

検査では、赤ちゃんへの負担を最小限に抑えながら、目の奥(眼底)を隅々まで観察します。主に使われるのは、手持ちの眼底カメラや、乳幼児のために開発された接触型広角デジタル眼底カメラ(RetCam®)などです。これにより、網膜の血管がどこまで正常に伸びているか、異常な血管が発生していないかを詳しく調べます。

特に、病気の活動性を正確に評価する必要がある場合には、「蛍光眼底造影検査」という特殊な検査を行うこともあります。これは、造影剤を使って血管の漏れや詰まりをより鮮明に映し出す検査で、治療方針を決める上で重要な情報となります。

診断は、国際分類に基づき、主に以下の3つのポイントを総合的に評価して下されます。

・病変の位置(Zone)

視力にとって最も重要な中心部(Zone I)に近いほど、重症と判断されます。

・病気の進行段階(Stage)

血管の異常がどの段階(Stage 1〜5)まで進んでいるかを見極めます。

・病気の活動性

血管の拡張や蛇行(plus disease)といった、急速な悪化を示す危険なサインがないかを確認します。

近年、こうした診断の客観性と精度をさらに高める目的で、眼底画像をAI(人工知能)が解析し、診断を補助する技術開発が世界中で進んでいます。

AIアルゴリズムは、医師の診断をサポートし、微細な変化の見落としを防ぐ助けになると期待されています。ただし、その診断精度は使用するカメラの機種やAIの学習方法など、さまざまな要因に影響されるため、現在もより信頼性の高い診断モデルの開発に向けた研究が続けられています。※

これらの検査と正確な診断を通じて病気の進行をいち早く捉え、最善のタイミングで治療につなげることが、赤ちゃんの視力を守るために何よりも重要です。

未熟児網膜症の治療

未熟児網膜症の治療は、病気の進行を食い止め、網膜剥離という深刻な状態を防ぐことで、赤ちゃんの視力を守ることを最大の目的として行います。治療法は病気の進行度や重症度に合わせて慎重に選択され、主に以下の3つの方法があります。

・レーザー光凝固術

・抗VEGF薬治療

・硝子体手術

レーザー光凝固術

レーザー光凝固術は、未熟児網膜症に対する標準的な治療法です。

この治療では、網膜の中で血管がまだ届いていない「無血管野」にレーザーを照射します。酸素不足に陥った無血管野は、異常な血管の増殖を促すSOS信号(VEGF)を出す原因となります。

レーザーでこの領域を凝固させることで、SOS信号の産生そのものを抑え込み、病気の活動性を鎮めて進行を止める効果が期待できます。

抗VEGF薬治療

抗VEGF薬治療は、近年選択されることが増えた治療法です。

これは、異常な血管の増殖を促すSOS信号「VEGF」そのものの働きを、薬の力で直接ブロックする治療です。目の中に「抗VEGF薬」という薬を注射することで、病気の活動性をすみやかに抑えます。

特に、視力にとって最も重要な網膜の中心部(ZoneⅠ)に病変がある場合や、病気の進行が非常に速い場合に有効な選択肢となります。

ただし、治療法の選択にあたっては、さまざまな側面からの検討が求められます。

複数の研究報告を統合・分析したある研究では、抗VEGF薬による治療は、レーザー治療と比べて、重度の神経発達障害や脳性麻痺のリスクがわずかに高くなる可能性が指摘されています。一方で、中等度の神経発達障害や聴覚障害のリスクについては、両治療法で大きな差は認められませんでした※。

硝子体手術

病状がさらに進行し、網膜剥離(Stage 4以上)が起こってしまった場合や、急激に悪化する重症例では、硝子体手術が行われます。

この手術では、網膜を引っ張る原因となっている異常な増殖組織を取り除き、剥がれてしまった網膜を元の位置に戻すことを目指します。

網膜剥離に至ると視力への影響は深刻ですが、手術によって網膜が元の位置に戻れば、視機能の回復が期待できます。早期に手術を行った場合の治癒率は高いと報告されており、病状を見極めて適切なタイミングで手術に踏み切ることが重要です。

どの治療法を選択するかは、赤ちゃんの全身状態、病気の場所(Zone)、進行段階(Stage)などを総合的に評価し、それぞれの治療法の利点とリスクを慎重に比較検討した上で決定されます。ご家族の不安も大きいと思いますが、担当の医師と十分に話し合い、赤ちゃんにとって最善の治療を一緒に考えていきましょう。