変形性膝関節症

立ち上がりや歩き始めの膝の痛み、「年のせいだ」と諦めていませんか。変形性膝関節症は国内の推計患者数が約2530万人にものぼり、40歳以上の約半数の方に膝の変形が見られる、誰にとっても身近な疾患です。

この記事では、変形性膝関節症の進行度別の症状や原因、検査方法について詳しく解説します。また、運動や装具による保存療法から、人工関節置換術や再生医療といった手術療法まで、さまざまな治療の選択肢も紹介します。

ご自身の膝の状態と痛みの原因を正しく理解し、どのような治療法があるかを知ることで、今後の不安の軽減が期待できます。専門医と共に最適な治療法を考え、より快適な生活を目指すための一歩としてお役立てください。

変形性膝関節症の概要

変形性膝関節症は、膝関節でクッションの役割を担う軟骨がすり減り、骨の変形や痛み、動きの制限を引き起こす病気です。

国内の推計患者数は約2530万人、50歳以上では約1000万人にのぼり、腰痛に次いで多くの方が悩む整形外科の代表的な疾患といえます。

主な原因は加齢による変化ですが、肥満や過去のケガ(骨折、半月板・靱帯損傷など)も発症に関わるため、幅広い年代で起こる可能性があります。実際、40歳以上の約半数の方にレントゲン検査で膝の変形が見られるというデータもあります。

近年、この病気の治療を取り巻く状況は変化しており、以前よりも若く活動的な患者さんが治療を選択するケースが増加しています。

こうした変化に伴い、従来の治療評価方法では実態を正確に捉えきれないという課題が生まれています。

従来の評価指標は、約30年前に作られたものが多く、「歩く」「階段をのぼる」といった日常動作の回復が中心でした。しかし、活動的な患者さんにとっては、これらの項目はすぐにクリアできてしまいます。

その結果、治療の成果が満点(天井)に達してしまい、それ以上の「スポーツを楽しめるレベルまで回復したか」といった、より高い目標達成度を測れない「天井効果」という問題が指摘されるようになりました。※

そのため、現在では手術した膝のことを忘れるほど快適になったかを測る「Forgotten Joint Score-12」のような、活動性の高い患者さんの満足度をより精密に評価するための新しい指標が求められています。※

このように、変形性膝関節症は単なる加齢による病気ではなく、あらゆる年代の「生活の質」に深く関わる疾患です。ゆっくりと進行し、初期には自覚症状が乏しいことも多いため、膝の違和感に気づいた段階で一度専門医に相談することが大切です。

変形性膝関節症の種類

変形性膝関節症は、主に「進行度」と「痛みの原因となる場所」という2つの視点から分類され、それによって治療方針が大きく変わります。

ご自身の膝の状態がどこに当てはまるのか、目安として確認してみましょう。

進行度(ステージ)による分類

変形性膝関節症の進行度合いは、症状やレントゲン所見に基づき、一般的に「初期」「中期」「末期」の3つのステージに分けられます。

各ステージの主な症状を下表にまとめました。

ステージ | 主な症状

初期 | ・立ち上がりや歩き始めなど、動作の開始時に膝が痛む ・しばらく動いていると痛みが和らぐことが多い ・膝の違和感やこわばりを感じる

中期 | ・階段の上り下りや正座が辛くなる ・膝が完全に伸びにくく、曲げにくくなる(可動域制限) ・膝に水がたまって腫れることがある

末期 | ・何もしていなくても痛む(安静時痛) ・夜間に痛みが強くなることもある ・O脚などの変形が目立ち、歩行が困難になる

痛みの場所による分類

膝関節のどの部分の軟骨がすり減っているかによっても分類されます。特に日本人に多く見られるのが、膝の内側の軟骨がすり減る「内側型」です。

この内側型では、がに股(O脚)が進行しやすく、歩行時に膝の内側へかかる負担が大きくなる傾向があります。

このような特定の部分に負担が集中している場合、装具による治療が有効な選択肢となります。ある信頼性の高い研究では、足に敷くタイプの足底板よりも、膝に直接装着する装具の方が、痛みを和らげる効果が高いことが報告されました。※

これは、膝装具が「膝内転モーメント(KAM)」と呼ばれる、膝の内側にかかる力学的な負荷を直接的に軽減してくれるためと考えられています。一方で、この研究では膝装具と足底板を併用しても、膝装具単独の効果を大きく上回る結果にはならなかったことも示されています。※

これらの分類は、今後の治療法を決定する上で非常に重要です。初期であれば運動療法や薬物療法といった「保存療法」が中心となり、進行した場合にはご自身の関節を活かす骨切り術や「人工関節置換術」などの手術療法が検討されます。

変形性膝関節症の原因

変形性膝関節症を引き起こす原因は、単に加齢だけではありません。原因が特定しにくい「一次性」と、過去のケガや病気が引き金となる「二次性」に分けられ、多くの方は一次性に該当します。

一次性:きっかけがハッキリしないタイプ

特別なきっかけがなく、日々の生活の中で少しずつ進行していくタイプです。複数の要因が複雑に絡み合って発症します。

・加齢

長年にわたって膝を使い続けることで、衝撃を吸収するクッションの役割を持つ関節軟骨が弾力性を失い、すり減りやすくなります。

・肥満

体重が増えるほど、膝関節にかかる負担は増大します。歩行時には体重の約3〜5倍もの負荷がかかるため、軟骨の摩耗を早める大きな要因です。

・性別

閉経後のホルモンバランスの変化などが影響し、男性よりも女性に多く発症する傾向があります。

・O脚・X脚

膝の内側(O脚)あるいは外側(X脚)に体重が偏ってかかるため、特定の部位の軟骨だけが集中的にすり減りやすくなります。

二次性:きっかけが明らかなタイプ

過去のケガや病気が原因となり、変形性膝関節症を引き起こすタイプです。

・過去の膝のケガ

骨折や靭帯損傷、半月板損傷といったケガの経験は、発症の大きな引き金となります。

特にクッションの役割を担う半月板の損傷や、本来の位置からのズレ(逸脱)は、軟骨のすり減りを著しく進行させることがわかっています。

注目すべきは、この半月板の異常が、年齢や体重とは無関係に、将来的に人工関節の手術が必要となるリスクと強く関連していると、複数の信頼性の高い研究を分析した結果、報告されている点です※。

・病気の後遺症

関節リウマチや痛風、化膿性関節炎といった他の病気が原因で関節軟骨が傷つき、二次的に変形性膝関節症を発症することもあります。

これらの原因は一つだけでなく、例えば「O脚の人が体重増加をきっかけに発症する」というように、複数重なり合って発症することがほとんどです。ご自身の生活習慣や過去のケガなどを振り返ることが、予防や適切な治療への第一歩となります。

変形性膝関節症の症状

変形性膝関節症の症状は、膝の痛みや動きにくさが中心となり、病気の進行度に応じてその現れ方が変化します。初期の段階では「動かし始め」に痛み、進行すると「常に痛む」ようになるなど、特徴的なパターンが見られます。

病気の進行度は、一般的に「初期」「中期」「末期」の3つのステージに分けられ、それぞれ現れる症状が異なります。ご自身の膝の状態がどの段階にあるか、目安として下表で確認してみましょう。

ステージ | 主な症状とメカニズム

初期 | ・動かし始めの痛み(スタートペイン) 立ち上がったり、歩き始めたりする際に膝が痛みます。これは、しばらく動かずにいたことで関節の潤滑が悪くなっているためです。 ・動いていると楽になる 少し動いているうちに関節液が循環し、潤滑油のように働くため、痛みが和らぐ傾向があります。

中期 | ・持続する痛み 階段の上り下りや正座など、膝に負担がかかる動作が辛くなります。 ・膝に水がたまる(関節水腫) 関節内の炎症により、関節を包む膜(滑膜)が刺激され、関節液が過剰に分泌されることで膝が腫れ、熱っぽさを感じることもあります。

末期 | ・じっとしていても痛む(安静時痛) 軟骨がほぼなくなり、骨同士が直接こすれ合うことで、安静にしていても強い痛みを感じます。夜間に痛みで目が覚める「夜間痛」に悩まされる方も少なくありません。 ・歩行困難 膝がまっすぐ伸びなくなり、O脚などの変形も進むため、歩くこと自体が困難になります。

ここで知っておきたい重要な点は、レントゲン写真で見る関節の変形の度合いと、ご自身が感じる痛みの強さは必ずしも一致しないということです。

医師から「かなり進行していますね」と言われても痛みは軽い方もいれば、逆に「変形は軽度です」と言われても強い痛みに悩まされている方もいます。このギャップが生まれる理由の一つとして、膝のクッションである半月板の損傷やズレ(逸脱)が挙げられます。

近年の研究では、この半月板の異常が、年齢や体重とは関係なく、軟骨のすり減りを加速させ、将来的に人工関節の手術が必要になるリスクと強く関連していることがわかっています。

一方で、意外なことに、この半月板の異常と痛みの強さとの間には、明確な関連が見られないことも報告されているのです。※

つまり、痛みは骨の変形だけでなく、関節内の炎症の強さ、筋肉の状態、さらには痛みの感じ方といった、さまざまな要因が複雑に絡み合って生じています。

痛みが強いと、それだけで生活の質は大きく下がってしまいます。しかし、たとえ痛みが強くても、さまざまな治療法を組み合わせることで、その苦痛を和らげ、膝の機能を改善できる可能性が示されています。※ ご自身の痛みの原因を正しく理解し、諦めずに適切な治療に取り組むことが大切です。

変形性膝関節症の検査・診断

変形性膝関節症の診断は、患者さんからのお話(問診)、医師による診察、そして画像検査という3つのステップで総合的に判断し、治療方針を決定します。

はじめに、問診で「いつから、どんな時に痛むのか」「日常生活で具体的にどのようなことで困っているか」などを詳しくお伺いします。

次に、医師が膝の状態を直接見て、触って確認する診察を行います。

・膝の見た目:腫れや熱っぽさがないか、O脚やX脚といった変形が進んでいないかを確認します。

・痛む場所(圧痛):膝のどの部分を押すと痛みが出るかを探り、痛みの原因となっている場所を特定します。

・膝の動き(関節可動域):どこまでスムーズに曲げ伸ばしができるかを確認し、動きの制限の程度を評価します。

これらの情報をもとに、診断を確定し、病気の進行度を客観的に評価するために画像検査を行います。各検査の目的は以下のとおりです。

検査の種類 | 主な目的

レントゲン(X線)検査 | ・骨の状態を撮影し、診断の基本となる情報を得る ・関節の隙間の狭さや、骨のトゲ(骨棘)の有無から病気の進行度を判断する

MRI検査 | ・レントゲンでは見えない軟骨や半月板、靭帯などの状態を詳しく調べる ・他の病気(半月板損傷など)との区別が必要な場合に行う

血液検査 | ・関節リウマチなど、症状が似ている他の病気の可能性がないかを調べる

これらの検査は、現在の状態を正確に把握するだけでなく、治療後の効果を客観的に評価するための重要な指標にもなります。

興味深いことに、治療によって患者さんご自身が感じる「楽になった」という主観的な感覚と、実際の身体能力の改善度には差が見られることがある、という研究報告があります。

例えば、人工関節の手術後に患者さん自身は「歩きやすくなった」と大きく改善を実感していても、歩行速度などの客観的な数値を計測すると、その改善はごくわずかであるケースも少なくありません※。

だからこそ、ご自身の感覚(問診)と客観的なデータ(検査結果)の両方を丁寧に照らし合わせ、一人ひとりの状態に合わせた最適な治療法を見つけていくことが大切なのです。

変形性膝関節症の治療

変形性膝関節症の治療は、病気の進行度や症状、患者さん一人ひとりの生活スタイルに合わせて、「保存療法」と「手術療法」の2つの柱から最適な方法が選択されます。

治療の基本は、まず手術以外の方法で症状の改善を目指す「保存療法」から始めることです。これらの目的は、現在の痛みを和らげ、病気の進行をできるだけ緩やかにすることにあります。

・運動療法(リハビリテーション)

膝を支える太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)などを鍛え、関節を安定させます。また、関節が硬くならないよう、動く範囲を広げる訓練も行います。

・薬物療法

痛みを抑えるための飲み薬や貼り薬、関節の潤滑油の役割を補うヒアルロン酸の関節内注射などを用います。

・装具療法

膝用のサポーターや、足の裏に敷く足底板(インソール)を使い、歩行時などに膝へかかる物理的な負担を減らします。

・生活指導

体重が増えると膝への負担は体重の何倍にもなるため、適正体重の維持が重要です。また、膝に負担の少ない動作の習得も目指します。

これらの保存療法を続けても痛みが改善しない場合や、変形が進行して日常生活に大きな支障が出ている場合には、手術療法が検討されます。

手術にはいくつかの種類があり、ご自身の関節を温存する方法や、人工物に置き換える方法など、さまざまな選択肢があります。

・人工膝関節置換術

傷んでしまった関節の表面を、金属やポリエチレンなどでできた人工の関節に置き換える手術です。この手術を受けると、多くの患者さんが術後3〜6カ月の早い段階で「痛みが楽になった」「動きやすくなった」と機能の改善を実感します。

しかし、興味深いことに、その主観的な実感とは裏腹に、歩行速度などの客観的な運動能力の改善は限定的である、という研究報告もあるのです。※

また、比較的若く活動的な方には、関節の傷んだ部分だけを交換する「部分置換術」という選択肢もあります。ただし、この手術の真の価値を評価するには、「スポーツを楽しめるレベルまで回復したか」といった、より高い目標を測るための新しい評価方法が必要だと考えられています。※

・再生医療

ご自身の脂肪などから採取した幹細胞を培養し、膝関節に注射することで、痛みの軽減や組織の修復を促す新しい治療法です。研究段階ではありますが、細胞の投与量が多いほど高い効果が示唆される一方、それに伴う安全性の検討も同じく重要とされています。※

どの治療法が最適かは、年齢や活動量、膝の状態によって全く異なります。ご自身の希望やライフプランを専門の医師に伝え、納得できる治療方針を一緒に決めていくことが何よりも大切です。