アペール症候群
日本で年間に生まれる赤ちゃんのうち、わずか約8人。約15万人に1人という、非常にまれな確率で発症する生まれつきの病気が「アペール症候群」です。頭や顔の骨、そして手足の指の形に特徴があらわれることから、国の指定難病にも定められています。
この病気のほとんどは、ご両親からの遺伝ではなく、お腹の中で育つ過程で起こる遺伝子の変化が原因です。「なぜ起こるのか?」「どのような治療法があるのか?」長く付き合っていく病気だからこそ、その詳細を知りたいと思う方も多いのではないでしょうか。
この記事では、アペール症候群の原因から具体的な症状、そしてお子さんの成長に合わせて長期的に行われる治療法までを詳しく解説します。
アペール症候群の概要
アペール症候群は、生まれつきの病気の一つです。 頭や顔の骨、そして手足の指の形に特徴があらわれます。 治療が難しく、長く付き合っていく必要があるため、 国の医療費助成の対象となる「指定難病」にも定められています。
この病気は非常にまれで、約15万人に1人の割合で発生します。 これは、日本全体で年間に生まれる赤ちゃんが約8人という計算です。 ご両親からの遺伝ではなく、お母さんのお腹の中で赤ちゃんが育つ過程で、 遺伝子に変化が起こることで発症する場合がほとんどです。
アペール症候群の主な特徴には、以下の3つが挙げられます。
- 頭の骨の変化
赤ちゃんの頭の骨は、脳の成長に合わせて大きくなれるよう、 いくつかのパーツに分かれ、つなぎ目(縫合)があります。 このつなぎ目が通常より早くくっついてしまう状態です。 脳が大きくなるスペースが足りなくなり、成長が妨げられることがあります。 - 顔の特徴
顔の真ん中あたりの骨が十分に発達しにくいという特徴があります。 そのため、眼が少し前に出ているように見えたり、 鼻からの空気の通り道が狭くなり、呼吸がしにくくなったりします。 - 手足の指の特徴
生まれつき、手や足の指の骨がくっついている「合指(趾)症」がみられます。 これはアペール症候群を診断するうえで、とても重要な特徴の一つです。
このほかにも、心臓や聞こえ方など全身に症状がみられることもあります。 そのため、お子さんの成長にあわせて、長期的に検査や治療を行っていくことが大切です。
アペール症候群の種類
アペール症候群は、頭の骨が早くくっついてしまう病気のグループの一員です。 このグループを「頭蓋骨縫合早期癒合症候群(とうがいこつほうごうそうきゆごうしょうこうぐん)」と呼びます。 グループには似た病気がいくつかあり、症状の現れ方で見分けます。
アペール症候群を見分ける上で、最も重要な特徴は手足の指の状態です。 頭や顔の症状は他の病気と似ていますが、指の違いは診断の大きな決め手となります。
■アペール症候群と似ている主な病気
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病気の種類 |
特徴的な症状 |
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アペール症候群 |
・頭や顔の骨の変形<br>・手足の指の骨がくっついている(骨性合指(趾)症) |
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クルーゾン症候群 |
・頭や顔の骨の変形<br>・手足の指に特徴的な変化がないことが多い |
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ファイファー症候群 |
・頭や顔の骨の変形<br>・手足の親指が短く、外側に曲がっている |
表にある「骨性合指(趾)症(こつせいごうししょう)」とは、指の皮膚だけでなく、中の骨までくっついている状態を指します。 この骨の癒合が、アペール症候群に必ず見られる大きな特徴です。
また、アペール症候群の中で「タイプ1」のような明確な分類はありません。 しかし、原因となる遺伝子の変化が起きる場所により、症状に個人差が出ることがあります。 ただ、どの場所に変化があっても、基本的な治療方針が大きく変わるわけではありません。
アペール症候群の原因
アペール症候群は、遺伝子の変化によって起こる生まれつきの病気です。 私たちの体を作る精密な設計図である「遺伝子」に、変化が生じることが原因です。
原因となるのは「FGFR2(エフジーエフアールツー)」という名前の遺伝子です。 この遺伝子は、体の骨が正しく形作られるよう指示を出す、司令塔の役割を持っています。
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遺伝子の名前 |
正式名称 |
主な役割 |
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FGFR2 |
線維芽細胞増殖因子受容体2<br>(せんいめさいぼうぞうしょくいんしじゅようたい2) |
・骨を作る細胞の成長を調整する<br>・骨の形が正しく作られるよう指示を出す |
アペール症候群では、このFGFR2遺伝子に「突然変異」という変化が起きています。 突然変異とは、設計図である遺伝子の情報が、偶然書き変わってしまうことです。
この変化により、骨の成長を調整する司令塔の働きが過剰になります。 その結果、本来は脳の成長に合わせてゆっくり閉じるはずの頭の骨のつなぎ目が、 通常よりかなり早い時期にくっついてしまうのです。 手足の指がくっついた状態で生まれてくるのも、同じ理由によるものです。
多くの場合、この遺伝子の変化はご両親から受け継がれるものではありません。 お母さんのお腹の中で赤ちゃんが育つ過程で、偶然に起こることがほとんどです。 なお、父親の年齢が高い場合に、この突然変異が起こる可能性が少し高くなることが知られています。
アペール症候群の症状
アペール症候群では、主に「頭と顔」と「手と足」に特徴がみられます。 原因となる遺伝子の変化により、骨が作られる過程で異常が起こるためです。 症状の現れ方には個人差が大きいですが、代表的なものを解説します。
頭と顔にあらわれる症状
頭や顔の骨の成長がアンバランスになることで、様々な症状がでます。
- 頭の形 赤ちゃんの頭の骨は、脳が大きくなるためのスペースを確保するため、 いくつかの骨に分かれています。 この骨のつなぎ目が早くくっつきすぎることで、 頭の形がいびつになることがあります。 脳が大きくなろうとする力で、骨が柔らかい部分へと押し出され、 クローバーの葉のような形や、先のとがった形になるのが特徴です。
- 脳への影響 頭の骨が小さいと、脳が圧迫されてしまいます。 この状態を「頭蓋内圧亢進(とうがいないあつこうしん)」と呼びます。 頭痛や吐き気、元気がなくなるなどの症状の原因になります。
- 顔の特徴 顔の真ん中部分の骨が十分に成長しにくくなります。 そのため、眼が前に出ているように見えたり、 鼻からの空気の通り道が狭くなり、呼吸がしにくくなることがあります。
手と足にあらわれる症状
アペール症候群の診断で、非常に重要な手がかりとなる特徴です。
- 指の癒合(合指症・合趾症) 生まれつき、手や足の指がくっついています。 皮膚だけでなく骨まで癒合している「骨性合指(趾)症」が、 アペール症候群のほぼすべての方にみられる大きな特徴です。 指がくっついているため、手がミトンのように見えることもあります。
全身にあらわれるその他の症状
頭や手足以外にも、全身に様々な症状を伴うことがあります。 ただし、これらの症状がすべて現れるわけではありません。
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分類 |
主な症状の例 |
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発達面 |
・ことばや運動の発達がゆっくりになることがあります<br>(約半数の方にみられます) |
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感覚器 |
・耳の聞こえが悪くなる(難聴) |
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循環器 |
・生まれつき心臓に病気がある |
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呼吸器 |
・いびきや、睡眠中に呼吸が止まる(睡眠時無呼吸) |
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その他 |
・肩やひじの関節が動きにくい<br>・汗をかきやすい<br>・腎臓や消化器の異常 |
お子さんの成長とともに新しい症状が出てくる可能性もあります。 そのため、定期的に専門の医療機関で診察を受けることが大切です。
アペール症候群の検査・診断
アペール症候群の診断は、生まれてすぐに行われることがほとんどです。 特徴的な頭の形や、手足の指がくっついている様子から、 この病気の可能性を考えて、詳しい検査を始めていきます。
診断は、一つの検査だけで決まるわけではありません。 お子さんの体の状態を正確に把握し、これからの治療計画を立てるため、 いくつかの検査を段階的に進めていくことが大切です。
診察と画像検査
まず、お医者さんが赤ちゃんの体を丁寧に見て、触って診察します。 頭の形や顔つき、手足の指の状態などを詳しく観察し、 アペール症候群に特徴的なサインがないかを確認します。
次に、見た目だけではわからない体の中の状態を調べる検査を行います。 これを「画像検査」と呼び、体の中を写真に撮るようなイメージです。
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検査の種類 |
この検査で何がわかるの? |
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X線(レントゲン)検査<br>CT検査 |
・頭の骨のつなぎ目が、早くくっついていないか<br>・顔の骨が十分に成長しているか |
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MRI検査 |
・脳が骨に圧迫されていないか<br>・脳の中に水がたまる「水頭症」がないか |
これらの検査で、骨や脳にどのような影響が出ているかを詳しく調べます。
全身の検査と遺伝子検査
アペール症候群は、心臓や呼吸など全身に影響を及ぼすことがあります。 そのため、心臓の超音波(エコー)検査や呼吸の状態を調べる検査など、 全身をチェックすることも、診断の重要なステップです。
そして、これまでの診察や検査の結果からアペール症候群が強く疑われる場合、 診断を確定させるために「遺伝子検査」を行うことがあります。 血液を少しだけ採って、病気の原因となる遺伝子の変化を直接確認します。 この検査によって、はっきりと診断がつき、治療への道筋が見えてきます。
アペール症候群の治療
アペール症候群を根本から治す治療法は、まだ確立されていません。 そのため、今ある症状を和らげるための治療が中心となります。 これを「対症療法」と呼び、その多くは手術によるものです。
治療は一度で終わることは少なく、お子さんの成長に合わせて、 生まれてから大人になるまで段階的に手術を受ける必要があります。 時には10回以上の手術になることもあり、長く付き合っていく病気です。
治療で大切にすること(優先順位)
命に関わることや、脳の成長を助けることから順番に治療します。
- 最優先される治療 心臓の病気や重い呼吸の障害など、命に直接関わる症状です。 これらの治療を何よりも先に行い、安定した状態を目指します。
- 次に大切な治療 脳が健やかに育つためのスペースを確保する「頭の手術」です。 脳は生まれてから急激に大きくなるため、早めの対応が重要です。
主な手術の種類
症状や年齢にあわせて、以下のような手術を計画的に行います。
- 頭や顔の手術
- 頭蓋形成術(とうがいけいせいじゅつ) 早くくっついた頭の骨を広げ、脳のお部屋を大きくする手術です。 脳が大きく成長する1歳ごろまでに行われることが一般的です。
- 骨延長術(こつえんちょうじゅつ) 特別な装置を使い、骨を少しずつ伸ばして頭や顔を広げます。
- 手足の手術
- 合指症分離術(ごうししょうぶんりじゅつ) 生まれつきくっついている手足の指を、一本ずつ分ける手術です。 物をつかむなど、手の機能の改善を目指します。
- その他の手術
- 気管切開術(きかんせっかいじゅつ) 呼吸が苦しい場合に、のどに空気の通り道を作り呼吸を楽にします。
- V-Pシャント術 脳の中に水がたまる「水頭症(すいとうしょう)」を改善する手術です。
アペール症候群の治療は、非常に長い期間にわたります。 専門の医療機関で定期的に診察を受け、成長にあわせた治療を、 根気強く続けていくことが、とても大切になります。













